ちゅんちゅん・と聞こえる鳥の鳴き声。部屋に満ちた匂いはまずスープと香ばしいパンのもの。カチャカチャと微かな音をたて、盆に載せられてスープの入った皿が運ばれてくる。
それを視界の端に収めながら、がさり・と音をたてて新聞を広げて、ざっと目を通した。ギアの封印状況や、出来ないものを破壊した・という記事に、眉間に力が入る。
とん・という軽い音がして、目の前に置かれていた“ちゃぶ台”というらしい床に直接座って使う低いテーブルの真ん中に、バスケットにつまったパンが置かれた。一度焼きあがっていたものを、もう一度オーブンで暖めたものだ。
「わしはもうちょっと濃い味付けの方が良いのぉ」
スプーンで目の前のスープを掬い、口元に運びながら、白髭の老人がやれやれと呟いた。
「いけません父上、塩分のとりすぎは体に毒なのですよ?」
野菜も食べて・と持ってきたサラダを老人の前に置くのは、長髪の青年。朝食の用意をしたのは彼だ。
「ほらヴィー!また溢してる!」
「五月蝿い!」
フォークが上手く使えないのか、サラダのトマトが滑るのか、逃げるトマトを手で捕まえて、ヴィーと呼ばれた子供は口に放り込んだ。
「テーブルマナーを身につけろ・とはいわないが、せめてフォークくらいは使えるようになれ」
「しょうがないだろ、こんなもの使うような食生活送ってなかったんだから」
「父上!ちゃんと味はついています、塩を足したりしないで下さい」
青年の横でこっそりとスープに塩を足そうとしていた老人は、しっかりと見咎められて悪戯が見つかった子供のような顔で笑い、
「見つかってしまったのぉ」
と、塩の小瓶ををテーブルに戻した。
「テスタメントー、パン一人何個ー?」
そういいながらヴィーは一つを手に取ると、そのまま齧りついた。それを眉を顰めて見ながら、テスタメントは一口分ずつ千切って食べる。
「二つあれば十分だろう」
「甘いのは?ジャムとかいうやつ」
「お前はジャムだけ食べるから当分禁止だ」
「ちぇー」
唇を尖らせて残念そうにいうと、ヴィーはパンをさっさと平らげた。自分の分のサラダを食べるべく、皿を前に持ってくると、握り締めたフォークで胡瓜を突き刺した。がちゃん・という音とともに皿が割れ、フォークがテーブルに深々と突き刺さる。
「ヴィー・・・力加減を覚えろと何度いえば判る」
額に青筋浮かべそうな様子でいうテスタメントに、クリフはからからと笑いながら、
「子供は元気過ぎる位が丁度良いじゃろう!」
「じいちゃん、話が判るー!」
「父上よりも年上ですよ、こいつは!」
ヴィーを指差し、強くいうテスタメントに、クリフはそうじゃったかのぉ・と笑う。
そこへ、急に部屋に一つだけある窓ががらり・と開けられた、外から。道路に面した二階の窓である、鍵をかけておかずとも普通此処からは誰も侵入できない。が、
「お早うございます!」
元気な声と共に飛び込んできたのは少女、その背には緑の翼と白い翼。二つに髪を結い、黄色いリボンが揺れている。
「お早う」
読んでいた新聞から顔を上げ、少女に向けて短い挨拶。少女は嬉しそうな顔で隣に腰を下ろした。
「ディズィー・・・・入ってくるなら玄関から・・・」
「靴玄関置いとくなー」
テスタメントの言葉を遮り、少女の姿を確認した時点で席を立っていたヴィーは、少女から靴を受け取ると玄関へ向かっていた。
「飯喰っちゃった?こんなのしかないけどどう?」
「・・・作ったのは私だが?」
テーブルを指差しいうヴィーに、テスタメントが静かに怒りながらいう。ディズィーは少し困った顔で、
「私、食事はクルーの皆ともう済ませてしまってるんです」
「そっかァ・・・テスター、今日のデザート何?」
「とりあえず自分の分を食べてからにしなさい」
ヴィーの割った皿を片付けたテスタメントは、自分の分のサラダをヴィーの前に置き、今度は割るな・と強くいった。ヴィーははいよー・と軽い調子で返事をして、サラダをつつく。
クリフがサラダにドレッシングをかけているのをみたヴィーは、俺も・とクリフからそれを受け取り、デロリ・とかけた。出すぎたー・というヴィーに、クリフはしょうのない子じゃ・と手をつける前の自分の分と取り替える。傍目から見れば祖父と孫、テスタメントは父親といったところか。
「ディズィー・・・デザートにオレンジを用意してあるんだがそれくらいなら食べるか?すぐ用意をするが」
母親かもしれない。
「お構いなく、気にしないでテスタメントさんも早く朝食を済ませて下さい」
柔らかく微笑みながらそういったディズィーに、テスタメントはそうか・と答えると、食事を再開した。
そこで、ようやく読み終わった新聞を畳み、
「・・・何故貴様達はいつも此処で朝食をとる?」
ジャスティスは、かねてからの疑問を口にした。その問いに、食事をしていた三人ははたと顔を見合わせ、
「一人で食事は寂しいもんじゃよ?」
「ならば貴様の部屋で息子ともども食事をすれば良かろう、私の部屋でする理由にはなりえない」
クリフの答えにジャスティスが間髪入れずにそういうと、
「ヴィーが一人で食事することになるじゃろ」
「ヴィーが貴様達のところに行けば良い」
「・・・おぬしが食事を必要としないのは判るがのぉ」
「私を納得させられる理由がないのに食い下がるな」
「一人の時間も大事じゃが、共同生活にはいい加減慣れんとな」
全くジャスティスの言葉など何処吹く風のクリフに、ジャスティスの手の中の新聞がくしゃり・と音を立てる。
「貴様らが順応し過ぎなのだ!!」
本日一回目のジャスティスの怒号が響いた。
□後書き
以前描いたアパートっていうのはこういうイメージです、と書いたSS。更新のネタがないから以前の上げて時間稼いでるとかじゃないよ。

なんかびっくりする誤字があって、何考えてたのか思い出そうと五分頭を捻ってしまった。トマトって匂いそんなにするか?と思ったらスープの間違いだった。芋料理を調べていてトマトベースの茸と芋のスープを見つけ、いつかネタで使おう・と思っていたらしいよ。そしたらスープのつもりがトマトと打つ・・・、馬鹿だ樽。どんな間違いだ。

アパートはほのぼの行きたいんだぜ!という気持ちが溢れていただけに、今迷走しているアパートネタがびっくりですね。なんというか、堂々と会わせられる様になったからか、色々とよからぬ妄想をするようになったよ。もともとしてただろうとかいわない、してたけど。
ハァハァ・・・死んでから少し無防備になったりするのかなジャスティス・とかが具体例ですね、妄想の。病院探せ。