「こうして・・・お前とのんびり酒を飲む時間など・・持てんかったからのぅ」
「そうですね父さん」
夕食を終え、テスタメントの片付けが終わった頃、クリフが嬉々として大量の酒瓶を持ってジャスティスの部屋に戻ってきた。そしてささやかな酒宴と相成った。ジャスティスは巻き込むな・といいたげにもう寝てしまっている。
「俺も飲みたいー」
ヴィーがテスタメントの背中に寄りかかりながら、ぶぅぶぅ・と駄々をこねる。酒が零れる・とテスタメントが睨むのも気にせず、
「俺100歳だもん!」
「そうじゃなー・・・一口くらいなら」
「いけません父さん!体は子供、そんな状態でアルコールを取っては成長に悪影響が」
「酒なんか飲まなくたって100年成長しなかったのに・・・」
ブルッと肩を震わせて俯いたヴィーに、テスタメントは泣くかと慌てて振り向いたが、
「今更そんなこと気にするかぁ!!」
顔を上げたヴィーは力を込めて(ただしジャスティスが寝ているので声のトーンはちゃんと落とす)いうと、テスタメントが持っていたグラスを奪い取った。テスタメントが止める間もなく一気に飲み干し、
「・・・・不味い」
吐き出しはしなかったものの、がっかりした様子で口を押さえると蹲った。ちぇー・と小さく繰り返しているのが聞こえる。テスタメントはヴィーの手からグラスを取り返すと、空いてしまったそれに琥珀色の酒を注ぎ、
「お前は子供舌だからな、口には合わないだろうと思っていた。これでも飲んでいろ」
そういってヴィーの前に置かれたのは葡萄ジュース、色だけならワインのようではある。ヴィーは唇を尖らせて、不機嫌そうな顔をしていたが、クリフが注いでくれたそれをちびちびと飲み始めた。ぼんやりと赤い頬は酔っているらしいが、それほどおかしい様子はない。
「良いもん良いもん、つまみは食べるから」
「つまみだけ食べられても困る」
「空きっ腹の酒は回るからな」
ヴィーがおつまみの乗った皿を一人で囲って食べ始め、テスタメントは全く・と呻きながらも苦笑いを浮かべた。クリフと二人で微笑ましく見ていたのだが、突然隣から聞こえた声に、テスタメントの顔が強張った。からくり人形のようにギギと首を動かし、声の方を見やれば、クリフの酒を開けて煽っているソル。
「常々不思議なのだが、普通に紛れ込むな・・・・!」
「ぅお・・・・危ねぇな」
流れるような動きで鎌を取り出し、ソルめがけて振り下ろすテスタメント。しかし、それはしっかりと避けられて畳に穴が開いただけだった。どうせ明日の朝には何故か穴は塞がっているので、テスタメントもクリフも気にしない。
ヴィーが止めとけよ・とテスタメントの服の裾を引っ張るが、
「何をしに来た、一応聞いてやる」
テスタメントの冷ややかな声など大して気にした様子もなく、ソルは勝手に出したグラスでクリフの焼酎を飲み干しながら、
「タダ酒飲もうと―――」
悪びれた様子もなくそういうソルに、今度は首を刈るように鎌を振り抜いた。流石に避けきれないと判断したソルは、封炎剣を畳に突き立ててそれを受け止める。
「タダ酒飲みに来ただけあって、貴重なもんから手を出すのぅ」
「何処までもあつかましい奴!!!」
「テスタメントぉ、あんまり声でかいとジャスティス起きるよ」
「ッ・・・・!それを飲み終わったらとっとと出て行け!家族の団欒だぞ?部外者の貴様は邪魔だと知れ!」
ヴィーの言葉にテスタメントは声のトーンを落としたが、その分目の鋭さは増した気がする。切れ味があるならば、首くらい楽に切り落とせそうなほど鋭い。
家族というなら、そこの餓鬼は何なんだ・とソルはいおうかと思ったが、不毛なので、
「お前のおやじには家族と括られたことがあるんだが」
「何故ですか父さん!?」
信じられない・といった顔で、テスタメントは頭を振った。数本開けてようやくほろ酔いといった様子のクリフは、ん?と首を傾げてからソルをまじまじと見て、
「聖騎士団の団員は、皆家族じゃからのぅ。一度でも籍を置いたなら、家族じゃ」
「父さん・・・・素晴らしいお心だと思います」
柔らかく微笑いながらいうクリフに、テスタメントは心底感銘を受けた・という顔で何度も頷いた。空いたクリフのグラスに酒を注ぎながら、
「それでもこの男だけは除外して欲しかった!」
悔しそうにいうテスタメントの背中をポンポンと叩きながら、ヴィーはソルの顔を見て、
「おじさんは酒飲んでも顔紅くならないの?」
ゴン・という音が部屋に響き、ヴィーは打たれた頭を押さえて畳に突っ伏した。質問の返答の代わりなのか、ヴィーの頭を封炎剣で叩いたソルは、今度はブランデーに手を出している。
「子供になんてことをするんだ!」
痛みで涙を滲ませるヴィーは、ソルを警戒してかクリフとテスタメントの後ろに隠れた。打たれた場所がまた痛むのか、擦るヴィーを見て、テスタメントがソルを睨むと、
「100歳とかいってなかったか?」
「いきなり叩くことないだろう、何も間違ったことをいってないのに」
「お前も殴られたいのか?」
ソルの静かな声に、一瞬テスタメントは鼻白んだが、鎌を構えつつ、
「殴ることはあるまい」
「餓鬼は殴った方が早い」
「おっさんなんか嫌いだ!!ッあ!!」
空になった酒瓶が顔面に直撃し、ヴィーはぼたぼた垂れる鼻血を押さえようと手の甲を押し付けた。テスタメントが慌ててちり紙を入れた箱を持って来て、上を向くな・といいながら鼻を押さえる。クリフはやれやれ・と溜め息をつくと、ソルのグラスにラム酒を注ぎ、
「あんまり乱暴にしてやるな、100歳といっても生きてきただけで中身は殆ど子供と変わらん」
「痛みを伴うと学習するぞ」
「曲がった子に育ったら可哀相じゃろが」
「テスタメント、あのおっさん嫌いー」
「私もだ!」
あーん・と泣くヴィーに、テスタメントは畳に落ちた血を拭きつつ、力一杯答えた。それが終わると氷でヴィーの鼻を冷やす。何から何まで母親のようだが、それを口に出すと凹んで半日動かなくなるので、クリフは何もいわない。
「二人ともとりあえずあと何発か殴った方が良いな」
そんな二人の様子を見ていたソルの言葉に、クリフがこらこら・と止めた。
「人の酒をタダ飲みに来て、あんまり目に余るならもうやらんぞ」
「・・・・判った」
酒の持ち主であるクリフのその一言に、ソルはむぅ・と唸って渋々頷いた。せめてつまみくらい何かないのか・といったクリフに、ソルはザックの中を漁ってジャーキーのようなものを取り出したが、どちらかというとそれは保存食として持ち歩いていたものらしく、味気ない。クリフは一つは摘まんだものの、合わんのぅ・と呟くと、テスタメント手製のピクルスを食べた。
「鼻血は止まったか?」
「うん・・・ありがとテスタメント・・・そういえばテスタメントもクリフと一緒に飲んでるのに・・・顔紅くなんないね?」
薄っすらと頬が赤いヴィーは、それが不思議なようだった。どうやらほんのりと頬が熱いのか、自分で額に手を当てたりして熱を測っている。テスタメントはクリフとソルを見比べ、また自分の相変わらず冷たい頬に手を当て、
「ギアは代謝が良い、アルコールを分解する速度が速いからな・・・あまり酔うことはない」
「俺は熱いー」
「ヴィーはギアだが、もともとアルコールを分解する能力が低くて、それほどその恩恵を受けられないのでは?」
顔は赤いし、額に手を当てれば熱いとはいわないまでも微熱程度。飲んだのはグラス半分程度だったが、入っていた酒が比較的度数の高いものだったのが良くなかった。気持ち悪そうにしているということはないが、とろんとした目でクリフに寄りかかっている。その様子を見たソルが鼻先で笑い、
「お子様だからな」
「おっさんの声、低くて聞き取れなかった」
「止めんか」
また酒瓶を放り投げようとしたソルに、クリフがじろりと睨みを効かせる。ソルはふん・と鼻を鳴らすと酒瓶を置いて、グラスを煽った。
□後書き
ジャスティスに酒を飲ませるのは無理だと・・・判っていたのに、どうしても・・・・酔ったところが見たかった。ギアは代謝が良さそうなので、ちょっとやそっとの量では酔わないと思います。そして酔うような量はつまり・・・急性アルコール中毒を疑った方が良いと思う量だと思います。

結論としては・・・・ジャスティスに飲酒は無理・・・と。弱い人なら気化したアルコールでも気分悪くなったりしますが、ジャスティスにそれは期待できなさそう・・・となると直接・・・・いやいや・・・なんでこれ口に出そうとすると変態臭いんだろう・・そこまでして見たいか?と自分で思うからでしょうか。
ダメ人間。