□ガチャ・という音が聞こえ、立て付けが悪いのか木のドアが軋む音を立てながら開いた。
「いらっしゃいじいちゃん」
□ジャスティスの部屋でテスタメントにせめて読めろ・といわれ、渋々勉強していたヴィーは、客の登場にこれで解放される・と、そそくさと玄関に向かった。
「これをお裾分けしようと思ってな」
「どしたの?」
「果物・・・・ですね」
□クリフが両手で抱えているのは、籠に果物が山盛りになったもの。□近くによるといくつか食べごろなのか甘い香りがする。□ヴィーは見たことがない果物を前に目を輝かせていた。
「これ全部果物?リンゴ、リンゴは判るよ!あとは・・・この絵がくっついてる缶は何?絵はオレンジだよね、皮が苦い奴」
□クリフに渡されたかごをしっかりと受け取ると、ヴィーは急いで部屋の真ん中にあるちゃぶ台(クリフ寄贈)の上に置いた。□ふんふん・と鼻を鳴らして香りを嗅ぎ、わぁ・と頬を綻ばせた。□テスタメントはやれやれ・と苦笑いを浮かべながら、クリフのお茶を用意する。□クリフに席を勧めて、お茶を出した。
「ミカンだ・・・それとオレンジの皮を生のまま食べようとするのはお前くらいだ、皮を剥くということを覚えろ」
「ミカン?缶の中にミカンっていうのが入ってるの?これ今食って良い?テスタメントおやつー」
「食べなさい食べなさい」
□ニコニコ笑ってクリフは籠の中からグレープフルーツを取ると、皮を剥いてヴィーに手渡した。□ヴィーは一度匂いを嗅いだ後、一房取って口に突っ込む。□予期せぬ酸味に顔を顰めたヴィーに、
「これはまだダメじゃったか」
「では砂糖をかけて冷やしておきましょう、夕飯のデザートに」
□そういうとテスタメントはヴィーからグレープフルーツを受け取り、台所へ向かった。□ヴィーはどう食べれば良いのか判らず、クリフが選ぶのを待つ。
「これなら良いじゃろ」
□ほれ・と手渡されたのはバナナ。□甘ったるいといって良い香りに、ヴィーはがぶりとそのまま齧りついた。□それを見ていたテスタメントが慌てて、
「それも皮を剥け!」
□猿でも剥いて食べるぞ・とは流石にテスタメントもいわなかった。
「・・・・果物ってめんどくせぇ」
□とりあえず齧った皮はしっかりと噛んで飲み込んだ後、クリフがやるのを真似て皮を剥き、ヴィーはバナナを一つ平らげた。□うまぁ・と喜ぶヴィーにもっと食べなさい・とクリフは籠を漁る。
「ところで・・・・これはどうしたんですか?まさか父上が買ったというのでは・・・」
□どう見ても贈呈用か何かの詰め合わせのそれを、父親が何処で手に入れたのかとテスタメントが首を捻ると、クリフは入れてもらったお茶を啜りながら、
「カイが墓前においていった」
「ッ!!!!ゴホッ・・・・ゴホゴホ」
「どうしたのテスタメント?」
「それはつまり・・・・・供えられたもの・・・ですか?」
□グレープフルーツを皿に盛り終わったテスタメントは、それを冷蔵庫に入れて、ヴィーのジュースと自分のお茶を手に席についた。□そうじゃよ・と頷くクリフはからからと笑い、
「一人じゃ食べきれる量じゃないからのぅ、お裾分けじゃよ」
「ジャスティスが居ない時で良かった・・・・また、機嫌を損ねられるところだった」
「まぁ・・・あやつは食べんからのぅ。じゃがほら・・・あの娘・・なんといったかの・・・ディズィーじゃ、あの子が来た時に出してやったら良いじゃろ」
「お裾分けといいながら・・・・丸々此処に押し付ける気じゃないでしょうね父上・・・・仮にも父上の為に供えられたものですよ?」
「酒なら良かったんじゃがなぁ・・・」
□心底惜しい・というようにいったクリフに、テスタメントは眉間を押さえた。□酒があると、つい手を出すクリフの体を気遣って、今ジャスティスの部屋の流し下がクリフの酒の置き場になっている。□流石にジャスティスの部屋に酒を飲む為だけには、クリフも入りづらいらしく、功を奏している。
□その間もヴィーはパクパクとフルーツを片付けていく。
「ヴィー、あんまり食べると夕飯が食べられなくなるからもう止めておけ。すぐには傷まん、明日にとって置きなさい」
「あ〜い」
「それにしてもカイめ・・・・いかんのう、お供えに果物や食べ物を供えたら、きちんと持ち帰らんと」
「ブッ!!!!」
□丁度お茶を口にしていたテスタメントは盛大に吹き、すいません・と謝りながら急いで台拭きを取りに立った。
「なんでー?」
「カラスが墓を汚すからじゃよ、そのまま置いておけば傷むしの。管理人に手間かけるし、不衛生じゃし、良くないんじゃよ」
□へぇ・といっているヴィーの横で、「ご自分で墓から持ってきたのですか?」と聞けないテスタメントは、痛むこめかみを押さえて俯いていた。