「おい・・・」
何度か繰り返された冷たく短い呼びかけに、呼びかけられた当人はそれに気付きながらも、気付かなかったかのように新聞を読み耽っている。ジャスティスはぐ・と短く呻き、
「貴様」
「クリフじゃ」
「なッ!」
「わしの名前はクリフ=アンダーソンじゃ。丸々お主に付き合った人生だ、名を呼び交わした仲でおいだの貴様だのという呼び方は好きじゃないのぅ」
「どんな呼び方をしようが私の自由だ・・・!」
クリフの言葉に歯噛みするように声を絞り出すジャスティスに、クリフは紙面から少しだけ顔を上げ、
「呼ばれて返事をするかどうかはわしの自由じゃな」
「ッ―――!判った、クリフ=アンダーソン」
「何じゃ?」
名前を呼ばれたことに鷹揚に頷いたクリフに、ジャスティスは苛々した様子で尻尾の先を揺らしながら、
「何故私の部屋の窓にこんなものを吊るしているのだ!!」
ジャスティスが指差した先に吊るされているのは柿、渋柿だった。寒風に吹かれて、小さく揺れている。昼下がりの青い空を背景にオレンジから濃茶へと色が変わっていく干し柿がそこにあった。
「貴様の部屋に吊るせばよかろう」
「わしの部屋見たことない・・・な、お主はこんからのう。わしの部屋はもう干すところがないから、此処にも干させてもらってるんじゃよ」
「視界の隅でちらちらと、不愉快だ!最初見た時は何かの肉かと思ったわ」
「干し柿知らんのか?美味いぞ〜」
「私は食べないと何度いったら判る・・・」
ギロリと射抜く様な冷たい目にも、クリフはからからと笑い、がさがさと音を立てながら読み終えた新聞を畳んだ。
「残念じゃのぅ、日本出身の団員に教えてもらって何度か作ってきたんじゃが、結構自信があるんじゃよ」
「興味はない」
「お主が興味があることなんてあるのか?」
クリフの少し驚いた様子に、ジャスティスは小さく呻いて何かをいおうとした様だったが、つまらなそうに鼻を鳴らすと、カーテンを乱暴に閉めて干し柿を視界から消した。
「こんな明るい時分に閉めたりしたら部屋の中が暗くなるじゃろ、明かりなんかつけたら電気の無駄じゃぞ?お主本を読むのじゃろう」
「要らん、読まん、もう寝る!」
「お主は本当に良く寝るのぅ」
「うるさい!さっさと出て行け!」
ジャスティスに怒鳴られ、クリフは微かに首を竦めたが、にやりと笑うとゆっくりと立ち上がり、
「上手く出来たらお前の娘にもおすそ分けしてやろうかの」
「本当に食えない爺だ!!」
「食われたらかなわんといっておる」
からからと笑いながら部屋を出て行くクリフの背中を見送り、ジャスティスはドカリと畳に腰を下ろすと、ぎゅっと目を瞑った。


「クリフ=アンダーソン」
「お主・・・・なんでいちいちフルネームで呼ぶんじゃ」
少しうんざりとした様子でいうクリフに、ジャスティスは眼を細め、
「お前がそう呼べといったのだろう」
「わしはそういう意味でいったんじゃないわい・・全く、名前で呼ぶだけマシと我慢してやろうかの」
「お前はいちいち癇に障る物言いをする・・・」
「クリフのじいちゃんの怖いもの知らずな感じ、憧れるー」
「私は胃が痛い・・・」
□後書き
フルネームで呼んでいるところが書きたかっただけ。そのために読んだ理由があまりにどうでも良いというかぞんざい、でもそのおかげで、なんというか・・・ほのぼのしたかなと思っています。

以前母が家で干し柿を作っていたんですが、ぱっと見あれは・・・・グロかったです。ジャスティスのいうように何かの肉のように見えなくもなかった。