□ぼんやりとしていた。□かつてならば考えられない・と自分で少し呆れながら、ゆらゆらと尻尾の先を揺らす。
□アパートの屋根の上でジャスティスは何をするでもなく、空を見上げていた。□といっても、雲を眺めているわけでもなく、鳥を追っているわけでもない。□顔が上を向いているだけだった。
□アパートという特異な空間に、図らずも順応してしまったいることをジャスティスは認め辛かったが、否定しきれないのもまた歯痒い。□ふぅ・と我知らず漏れた溜め息に気付き、ジャスティスは肩を落とした。
□その時、ジャスティスの体を背後から何かがパチパチと音を立てて打った。□打ったといっても、痛みどころか一体何が当たったのかの感触すら定かではない。□ただ、屋根の傾斜を転がる小さな丸い粒が視界に入った。
「・・・・豆・・か?」
□首を捻ろうとするジャスティスを、もう一度豆が打つ。□ジャスティスはゆっくりとした動作で振り向くと、見知った人物がいた。□尻尾の先でバリと雷が鳴る。
「何の用だ」
□すぐに怒るようなことはせず、一応声を押し殺して訊ねると、その人物は左手に持った升から豆をもう一掴み取り、
「鬼は外」
□ぼそりと低く聞き取りにくい声でいうと、ジャスティスの顔目掛けて投げた。□額や顔に当たった豆がぱらぱらと音を立て、装甲の隙間に入りそうになるのをジャスティスは指で弾いてどかした。□触れた豆がパチという音と共に弾ける。
「何のつもりだ」
「節分というジャパニーズの風習で、鬼に豆をぶつけて邪気を祓うんだそうだ」
「そうか」
□男の返答に、ジャスティスは短くそういうと、
「とりあえず・・・・消えろ」
□バクンと開いた砲門には、全てを祓うかのような白い光。□男は微かに顔を引きつらせたが、
「こんな豆で祓うなんて性に合わん、自分の力でしてこそ・と思ってた」
□にやりと不敵に笑うと、剣を取り出し構えた。
「喧嘩を売りに来たのだな、理解した」
□光を放ちきったジャスティスは、ソル目掛けて腕を振るった。
□頭上から響く轟音と共に、揺れるアパート内。□時折埃だがなんだかが降ってくるが、食卓についた三人は、もう気にすることを諦めた。
「百粒近い豆をただ食べるのも億劫でしょうから」
□そういって笑い、テスタメントは盆に乗せて来た味噌汁の入った椀を、クリフ達の前に置いた。
「豆腐と油揚げ・・・・すげぇ豆づくしだな」
「それに冷奴と揚げ出し豆腐、豆腐ハンバーグに湯葉のお刺身。あと豆乳のプリンをデザートに用意しました」
「むしろ取り過ぎてないかと心配になるくらいじゃのぅ」
□冷奴に薬味の生姜を乗せつつ、クリフはからからと笑う。□ヴィーは箸が使えない為、スプーンで納豆をすくって食べながら、
「じいちゃんの海苔巻き半分くれ」
□と、海苔の代わりに野沢菜の漬物で巻かれた海苔巻きを指差した。□ちなみにヴィーのは卵で巻いたサラダ巻き。□ポピュラーなものはテスタメントの前に置かれている。
「これ三つずつに切り分けるかの?そうしたら皆色々な味のものが食べられるわけじゃし」
「・・・・良いのでしょうか、切ってしまって?」
「・・・・さぁ?ジャパニーズの習慣なんて聞かれても困るんだけど」
□テスタメントの問いに首を捻るヴィー。□その時頭上から誰かの短い呻き声が聞こえ、窓の外で屋根瓦が落ちていくのが見えた。
「・・・・角があるからって・・・よくいったな、あのおっさん」
「アパートが壊れない限りは好きにするが良い」
□切り分けた海苔巻きの一つを齧りつつ、クリフはにやりと笑った。