ふっふっふ・と不敵に笑い、顔をあげた男の目には疲れからかくまとやつれが見て取れた。それも仕方ないだろう、近頃続いた不始末の為に、始末書に忙殺されていたのだ。
「・・・・」
何もいわずにいつも通りのコーヒーを書類を避けて置くと、男は小さくありがとう・といってそれを一気に飲み干した。そうすることを予測して、少し早めに淹れておいたそれは多少匂いの面では損なわれただろうが、男が飲み干すには丁度良い温度の筈である。それに匂いが味が・というほど高価なものでもないし、男も普段から気に止めない。
「これさえ・・・・・これさえあれば捕まえられる・・・!」
未だにフフフと忍び笑いを漏らすのを止めずに男が見ているのは30cm四方くらいの紙・・・いや、それはおそらく何か薄いものを入れるケースらしい。印刷されているのは写真・・・・だが、あえて古くなっているように加工が施されているのか、不鮮明である。
「これはね」
ぐるりと椅子を一回転させて(その行為の意味も判らない)、男は聞いてもいないのにいきなり説明を始めた。
「今から・・・200年位前にいたあるバンドのレコードジャケットを資料を漁って復刻したものなんだよ」
始末書を片付けている間に、他の所員に正規の仕事もさせず、何をさせているんだこの男は・と思ったのだが、そういう目で見られても男の面の皮は知っている通り厚く、全く意味がなかった。始末書をやっている間、しなければいけない別件の仕事は目に見えて今机の上に溜まっているのに、男は一体何を考えているのだろうか。
「中身のほうは・・・・まぁ無理だったんだけどね、限界あるし。でもこれだけよく出来ていれば、絶対釣れる!」
何故自分に話すのか今一判らなかった、望むような相槌を打つことがないのは知っているはずなのだが。それに話しかけられている間、雪崩が起きそうな机の上を片付けたり、机の脇でたまったゴミ箱の処理などの他の仕事が出来ないのだが・と思いながら、男が続ける言葉を聴く。
「これをね、餌に罠を張れば絶対引っかかると思うんだ。手元にあるデータで考えると、これが餌に一番良いはずなんだ」
ふとそこで気付いた、男の言葉は「誰」というのが欠落している。首を捻ると、男は嬉しそうな顔で、
「誰に・って思ってるんだろう?ふふ・・・誰だと思う?」
そんな紙ケース一つでどうの・といわれても、与えられたデータ内にそんなものはない。判らない・という意味で首を横に振ると、男はさらに喜んだ。
「ソル=バッドガイ♪」
弾む声でそういった男に、
「・・・・」
沈黙で返すと、
「君さァ、ジャスティス相手にだったらあんなに喋るのに、僕の相手だと随分つれないんじゃない?」
「理解・・・・不能・・・」
紙ケース一つであの男を釣る・というのがあまりに理解に困り、それだけ返すと、
「人から聞いた話なんだけど、彼は“Queen”ってバンドのレコードが大切なものなんだって。だから同じバンドの違うレコードで釣れるんじゃないのかなァ、って」
「理解・・・・」
と、返事はしたが、いくら大切でもこんなもので引っかからないだろう・と、内心は思っていた。
「これを道に置いてさ、落とし穴作って、そこに結界装置を仕込んでおいたら絶対捕獲できると思うんだよね」
きっとこの男は始末書の処理で疲れすぎて、だからこんな馬鹿なことをいい出したのだろう・と自分の中で結論付けると、男の机を片付けだした。
「いつかこの捕獲作戦を決行するよ!今は無理だけどね」
「・・・了解」
やれやれ・と内心で呻きながら、男の疲れをとるには何が良いだろう・とぼんやりと考えていた。
「作戦名は・・・・“Q”が良いかな」
□後書き
物凄く疲れて完全に壊れているクロウと、何気にかいがいしいコピー。おかしいだろ。(セルフ突っ込み)

家事用コピーはマスター登録した人のいうことは“基本”絶対遵守なので、いうことはきちんと聞くが、相手の状態を考えてそれに配慮した行動をとるかはコピーの自由。そのほうが萌えませんか?(樽は一度逝くべき)
それでも頑なにジャスティスに話す様には喋らない・というのを通すコピー。クロウは好かれているわけじゃないと思います。コピーの性格がまめ・ということでしょうか。

あぁ・・・・・ソルなら引っかかってくれると思うんだけどなぁ・・・だめかなぁ。