昼過ぎ、コツコツと廊下をヒールが叩く音が響く。脇に抱えた書類の中から、これから向かう部屋にいるサンプルの資料を取り出すと、ざっと目を通した。施術前の状態と施術直後に見られた変化、更に経過によって新しく出てきた変化が事細かに書かれた書類は、要点がきちんと判るよく出来たものだった。
「意外とまめね」
ポツリと呟いて顔を上げると、廊下の向こうから当人が不機嫌そうな顔で歩いてきていた。彼は今朝から実験棟に篭もりきりで、顔を合わせなかった。相手も気付いたようで、火をつけないで咥えていた煙草をポケットから取り出したケースにしまった。
小さく手を挙げて少し足早に近付くと、ふと今日が何の日か思い出した。思い出すと、少し楽しい気分が滾々と湧き、喜ぶ歳ではないのだけれど・と思いながら、
「フレデリック、トリックオアトリート!」
「あ?」
何を・といいたげに短い声を上げたフレデリックは、小さく鼻を鳴らすと、
「それは子供の台詞だろうが」
「それは判ってるわよ、挨拶のつもり。折角のイベントなんだし、少しくらい楽しみたいな・って。お菓子が欲しいなんて思ってないわ、もちろん悪戯もしない」
クスクスと微笑うと、フレデリックはふ〜ん・と呟き、白衣のポケットを漁り始めた。挨拶を終えたのだから、目的の部屋に行こうとしたのだが、待て・と止められ、小さく首を傾げてフレデリックを待った。
「ほら」
出せ・といわれた掌に置かれたのは赤い紙に包まれた飴。お菓子を持っていたことが意外だったが、紙を開けると香料が香る。
「ミント?」
「のど飴だがな」
「フレデリックが飴を持ってるなんて意外ね」
貰った飴を口に入れ、小さく微笑うと、フレデリックはにやりと笑った。その笑顔に、ん?と違和感を覚えた。
「アリア、トリックオアトリート」
「・・・・・」
ポケットの中に入っているのは、数日前のメモとコインが数枚。違うポケットにはボールペンがあるだけで、お菓子など持っていない。
「子供の台詞っていったのは貴方じゃない」
といったところ、笑顔を崩さずに頬を指差した。暗に私の口の中の飴のことをいっているのだろう、確かに私は彼からお菓子を貰ってしまっている。
「あと・・・で、購買で何か・・・」
悪戯など何をするのか想像できなかったが、されないに越したことはない。少しの猶予くらい与えてくれるだろうと期待したのだが、その言葉を遮って、
「今持ってるだろ」
フレデリックのどこかからかう様な声に、え・と声を上げる間もなく、顔を近付けられた。
□後書き
風邪か何かで喉が痛かったんじゃないでしょうか。
悪戯をされたのか、お菓子を取られたのか判らない結果に・・・・両得・・か?

うちのフレデリックさんは押すタイプですね、世間と違う自信があります!でも押されて戸惑う女性にときめくんだ・・・樽は。女性の恥らうところとかたまらねぇ・・・特に大人の女性・・・別に女の子でも構わんが、大人の方が断然好みだ。(どうでも良い主張)