昼下がり、ジャスティスは窓際で転寝をしていた。部屋にはヴィーとテスタメントがいたが、二人とも、眠っているジャスティスを気遣ってか静かに過ごしていた。テスタメントは白い布に白い糸で刺繍をしている。ヴィーは、慣れた手つきで進められるその工程を面白そうに覗き込んでいた。
不意にジャスティスの尻尾がピクリと揺れ、ん?とテスタメント達がジャスティスの方へと向くと、ジャスティスは目を覚ましたようだった。辺りを見回すような動きをした次には転移をしようとしたようだったが、
「ッ!」
小さく呻いたその顔に、テスタメントとヴィーは不穏なものを感じて、お互い顔を見合わせた。転移しようと組んだ法術を中断したジャスティスが違う法術を組み上げようとした瞬間、ガチャリと玄関の扉が開いた。ノックはない。
「ジャスティス、会いに来た」
現れた珍客を見た瞬間、テスタメントとヴィーの眉間に深い皺が刻まれた。うっ・という呻きさえ漏れる。だが当人は二人の怪訝そうな表情を見ても気にもしない。やぁ・と手を上げる珍客の声にジャスティスは、
「俺・・・・ジャスティスがあんなに嫌そうな顔してるの・・・見たの初めてかも」
「私もだ」
ジャスティスはどういう反応をしているだろうとジャスティスを振り返った二人は、窓際でそれは嫌そうな顔をしているジャスティスに、背筋を凍らせた。
「・・・・何をしに来た」
珍客を視界に入れたくもないというように、顔を背けるジャスティスの声は苦みばしっていた。客の姿を全く確認していないが、来ることを予測していたようではあるし、しっかりと声で誰かも判っている。
「転移しようとしていたのか?結界を張って正解だったな・・まぁ・・・オリジナルならすぐに解除できるような簡単な代物だが、今回は時間が足りなかったか」
ふふ・と小さく微笑うと満足そうにいう珍客に、ジャスティスはようやくそこで珍客の方を向いて、凍りついた。テスタメント達の反応がおかしかった理由をそこでジャスティスも知ったのだが、
「止めんか馬鹿者ッ!!」
怒号と共に一閃、剣のように形を変えた左手を力一杯振り抜くジャスティス。バリッという音が響き、もともと座っていたテスタメント達だったが、慌てて頭を低くした。
そして攻撃を受けた当人も、どうにか姿勢を低くして直撃は免れたのだが、
「今のは避けなければ首が飛ぶ高さだったのだが・・・」
落とすつもりだったとは思わないのか、パサリと床に落ちたものを残念そうに摘み上げて、珍客・コピーは不満げにいった。怒りで眦を吊り上げているジャスティスを前に余裕のコピーだったが、ユラリと一歩踏み出したジャスティスの肩の砲門が開いていることに気付くと、流石にその表情を崩した。テスタメントは慌ててヴィーを手元に引き寄せて防御用の法術を組むが、
「貴様は・・・作った者同様、人の神経を逆撫でるのが得意なようだな・・・」
反動に備えてジャスティスの体が無意識に強張り、砲門に法力が集中する。今まさに放たれんとした時、
「ジャスティス、ディズィーが」
不意にかけられたヴィーの言葉に、ジャスティスの集中が途切れた。ディズィーが傍にいないというのはすぐに判ったのだが、集まっていた法力は一気に霧散し、声をかけたヴィーへとゆっくり顔を向けた。
「流石にそれを室内でされるととばっちり激しいし、いくらこの不思議アパートでも倒壊するかもしれないから・さ。ごめんねジャスティスー」
そういって済まなそうにぺこりと頭を下げたヴィーはテスタメントに抱えられながら、ジャスティスを見上げた。ジャスティスは尻尾でヴィーの額を小突いた後、同じように防御用の法術で来るべき衝撃に耐えようとしていたコピーを睨み、
「貴様・・・・それは一体どういうつもりだ」
あまりのことに思わず問答無用で消し飛ばそうとしたが、幾らか落ち着きを取り戻したジャスティスは、努めて冷静な声音でそう聞いた。コピーは恐る恐る防御壁を解除し、摘み上げていたものを指差しながら、
「ジャスティスに見せに。よく出来ているから、喜んでくれると思ったのだが・・・」
本気で思っているのか、ひどく残念そうにいうコピー。ジャスティスの顔が更に顰められ、頭が痛くなってきたテスタメントは、はぁ・と重い溜め息をついた。ジャスティスの右手にバリバリと音をたてて雷が走るが、すぐに攻撃する様子は見せない。
「一体私が何を喜ぶというのだ?」
コピーは切られたことで、無くなってしまったことが落ち着かないのか、頭の上を気にしている。本来ならば角がある位置につけられていたらしい。ジャスティスの静かな声の下、煮えくり返るような怒りはありありと見えた。テスタメントはヴィーを避難させるように二人から離れて部屋の隅に行く。ジャスティスの機嫌がどんどんと悪くなっていくのだが、原因であるコピーは全くそんなことを気にせず、切れてしまった“ウサギの耳”だったものを元の場所に合わせ、
「ウサギの耳、可愛いだろう?」
「私の姿でそんなことをいうのは止めろ!!」
ゴツッという音、ジャスティスがコピーの頭の上に腕を振り下ろしたのだ。小さく呻いたコピーだったが、叩かれた頭を押さえて蹲りながら、
「ウサギは可愛いだろう?」
「知らん!」
コピーの言葉を一言で切って捨てるジャスティス。ウサギが可愛い・というのはテスタメントも納得できたのだが、それがどうしてコピーにウサギの耳がつくことになるのか判らなかった、考えたくもなかったが。
「・・・何を考えているんだ終戦管理局」
テスタメントは、自分を作った組織の別の意味で嫌な面を見せられたようで、げんなりしていた。ヴィーはそんなテスタメントの顔を覗き込みながら、
「ウサギは美味い・だよな?」
「ヴィー・・・話がややこしくなるからジャスティスにはいうな・・・」
そういえば聖戦中ウサギを捕まえて食べていたな・と思いながら、得意満面の顔でいうヴィーの頭を撫でる。最近テスタメントのジャスティスに対する態度が変わった所為か、ヴィーの態度も柔らかくなった。ジャスティスを好きなものは好き・と本当に公言していた通りらしい。ということは、今ジャスティスに凄く嫌われているが、当人はジャスティスが好きらしいコピーもヴィーは好きだというのだろうか。
「可愛いのだ、世間一般的にはウサギは可愛い。だから愛玩動物として檻で囲われているのだろうが」
判るか?と首を傾げながらいうコピー。ジャスティスの尻尾の先がピクリと震える。コピーは言葉を続ける。
「マスターがいうには、私のこの姿は可愛げがないからとこうしてウサ耳をつけることになったのだ。これを見たマスターは“これはこれで”というから採用になった」
「良いのかそんな支部長・・・・」
「それが貴様が此処に来たのと何の関係があるんだ?」
「だから、これを見せに」
「何故見せにくる?」
「喜ぶと思って」
「何故喜ぶと思う?」
「可愛いから」
「可愛くなどないわッ!!」
つい先刻していた会話とほぼ同じことをかわしていたが、バツーンという音が響く。ジャスティスは手がコピーの砲門にぶつかるのも躊躇せず、コピーの顔を叩いた。というか、その衝撃は恐らく殴ったのと変わらない。頭の中身を揺らされたコピーは、ヘタリと膝をついた。更にジャスティスは拳を固く握ると、
「貴様が嫌がらせに来たというのは良く判った・・・!」
「そんな!喜んでもらえると信じていたのに!」
「その自信が何処から来るのか判らんわ!!!」
もっともなジャスティスの叫びにテスタメントとヴィーも力強く頷いた。コピーは不満そうな顔をして、
「私も理解は出来ないのだが、可愛い・というから・・・それならオリジ・・・ジャスティスも褒めると。それにこちらの方が集音率が上がるといっていた!」
「貴様も結局判っていないではないか!!だいたい元々そこで音を聞いているわけではないだろう!」
チョップとばかりにコピーの頭に手刀を叩き込むジャスティス。だが、判っていなかったことに少し安心もした、ウサギの耳をつければ可愛いなどとわけの判らないことを判られてはたまらない。
「あんな屑どもの言葉を鵜呑みにしおって」
「ジャスティスー、コピーの尻尾ウサギみてぇ。短ーい」
「無意味なことをするな!」
ジャスティスの前で正座して怒られていたコピーの尻尾の違和感に、ヴィーがそういって尻尾を指差せば、本来なら隠しようのない長い尻尾が前にいるジャスティスからは全く見えない。あー変えた・といって少し腰を捻って尻尾をジャスティスに見せた瞬間、怒鳴られて顔を殴られた。危うく後ろに立っていたヴィーが潰されそうになる。
コピーは殴られた顔を押さえながら、
「私は実戦機能を搭載されていない、尻尾を変えても問題ないというから!マスターが耳だけだと変だといったのだ」
「だからいわれたことをそのまま信じるな!私への嫌がらせだと気付け愚か者!!」
みっともない真似を!と苛立たしげに吐き捨てた後、ジャスティスの一方的なラッシュが始まった。攻撃の余波で怪我をすることがないように、テスタメントはヴィーを手元に引っ張ると、一度は解いた防御用の法術を組む。ヴィーは目の前にある緑の光の膜のようなものを指でつつきながら、
「いやー、ジャスティス輝いてるねー」
「多少乱暴なやり方でも繋がるな」
「当たり判定でかいからね、コピーも」
と、二人が話していると、ビシッという音と共に雷が防御壁に当たって砕け散った。一応コピーも反撃まではしないものの攻撃を躱したり防御したりとしているが、それにも限界がある。
散々痛めつけられたコピーは、
「ジャスティスは好きではないようだ・・・マスターに元に戻してもらう」
「貴様自体好きではない」
完全に気を落としてしまったコピーに、追い討ちをかけるジャスティス。じわりと涙を滲ませたものの、流石に泣き出しはしなかった。コピーは自分の右の掌に目を落とし、その上に小さな法陣が広がった。それがはらりと緑の火の粉へと姿を変えて崩れると、
「帰る」
短くそういうと、さっさと転移した。どうやら先刻のは、結界を解除していたようだ。床には置いていかれたウサギの耳の作り物が落ちていて、ジャスティスはそれを燃やすと、
「今度からあれが近づけないように結界を考えるか・・・」
呻くように、疲れを滲ませてそういった。
「まぁ・・・実戦機能はなくともそこそこ丈夫なんだし、サンドバックだと思えば少しは違うんじゃない?」
ケラケラ笑いながらいうヴィーにテスタメントは顔を顰めた。ジャスティスが気に入っているらしいあのコピーをヴィー自身は嫌ってないようだが、サンドバックというのは流石に哀れだった。
□後書き コピーに懐かれるジャスティス萌。
やっぱりコピーの喋り方悩むー。ゲーム中の喋り方はクロウの前だけ・ということで此処は一つ。

ウサギは鶏肉みたいだっていいますね。美味いの話を広げると、エロいことになった。(樽の頭が)ということで、テスタメントの好セーブで回避されました。良かった良かった。

樽の脳内のやばさに改善はないのですけども。

なんか無意味にテスタメントとヴィーが仲良くなったなァ・・・・テスタメントが刺繍してるのはディズィーの花嫁衣裳だったりする・・・。