「いきなり売りますはやっぱり無理があったよねェー」
「失せろ」
低い、声。
夕暮れ、夜というにはまだ早かったが、火を熾して手に入れた食料と持ち歩いていた糧食で夕飯にしようとしていた時だった。思わぬ珍客は火の傍に来ると、取り出したハンカチを地面に引いて、その上に座った。ソルが慣れた手つきで枝で作った串に刺した魚を火に翳すように置いたのを見て、クロウはポケットから白い塊がいくつか入った袋を取り出した。開けた時点で鼻を掠める微かな甘い匂い。ソルの眉間に皺が寄る。
「なんていうかお客様のニーズに応え切れないというか、まず使われて初めて判る問題点とかあるし」
「三度はいわん」
低かった声に殺気が篭もる。
マシュマロ焼いて良い?と訊ねながら、クロウは答えも待たずにどこかから取り出した金串に刺した白い塊―マシュマロだったらしい―を炙る様に火に翳した。辺りに広がる甘い匂いが強まり、ソルの眉間の皺がますます濃くなる。
「というわけで、モニターってことで、一人一体ずつうちの所員の家にコピーを数日置いたんだけどさァ」
ボッという音と共に、剣から立ち上る炎。
「ジャアァスティース!」
クロウの呼びかけに、クロウの前にコピーが現れ、クロウを背に庇った。
「本当に君って気が短いねェ」
やれやれ・と呆れたようにいうとマシュマロを頬張り、クロウは眼鏡を外してポケットから取り出した布で拭った。
「このコピーは武装解除したものじゃない・・・このまま実戦データ収集をしても構わないんだが、来た用件が終わってからが嬉しいなぁ」
「てめえに付き合う気はねぇ!!」
「君が一番ジャスティスを知ってるんだから、しょうがないじゃないか」
「俺が知っているジャスティスはギアだ!そんな家事手伝いの為の人形じゃない!」
苛立たしげにそういうと、底冷えするような冷たい目で睨みつけた。が、クロウには効かないのか何処吹く風で、焼いたマシュマロをもう一つ頬張り、
「所員皆が口を揃えて、普通の家には大きすぎるっていうんだよねェ」
普通に会話を続け、ソルは頭の痛みに顔を顰めた。厚顔無恥とはこういう男をいうのだ・と腹の中で毒づいた。
ジャスティスは2m、200kgを超える。重さに関して言えば、普段から浮いているため、床が抜けるようなことはないだろうが、高さはいかんともしがたい。
「普段支部で使う分にはお茶汲みとか掃除とか問題なくやってくれるから、気にならなかったんだけど・・・やっぱりもうちょっと小さくした方が良いのかな」
広い研究室内とはいえ、色々なものが所狭しと置いてある中、コピーは器用に立ち回っていた。故にクロウは完全に大きさに対しての違和感を感じなくなっていた。が、一般家庭ではそうはいかない。
「本当に家事手伝いで使っているのか・・・・・」
信じられないものを見る目を向けるソルに、クロウはそういっただろう・と胸を張る。
「小さくすること自体は問題ないんだけどね、その分浮くものもあるし。確かに出力の面で下がるのは否めないが、戦闘用に使うわけじゃないし」
でも・と言葉を一度切ったクロウは、眼鏡の蔓をなぞりながら、
「こっちの方が迫力があるだろう?」
「下らねぇ」
といった瞬間、ソルはふと何かを思い出したのか眉間に皺を寄せた。
「一人一体?」
「一体作って売る・じゃ、とてもじゃないけど君達が壊した支部の費用賄えないよ。量産しなくちゃ」
当たり前だろう・というクロウに、ソルは眉間に深い皺を刻んだ。いつものごとくヘッドギアで見えないが。
「ま、これは僕のだけどね」
そういって目の前のコピーの髪を引っ張り、にっこりと微笑んだ。嫌なものを見た・というように顔を顰めるソルに、失礼な・と鼻を鳴らしたクロウは、
「色々僕用にカスタマイズしてある・・・好みのカスタマイズが出来る・っていうのもセールスポイントになるかなぁ」
「知るか!下らねぇ・・・・俺は関わり合いたくねぇな。他当たれ」
「他・・・というと、やっぱりあの人型ギアかな・・・ジャスティス森に行くぞ」
ソルの言葉に簡単に引き下がったクロウ、人型ギアと森という言葉で、誰のことをいっていたのか判ったソルは、厄介払いできたことにほっとしながら、一抹の不安を覚えた。
□後書き 「言葉を伸ばした時の小文字の母音がカタカナ」なのは、クロウだけです。なんというか・・・こうするといやらしさが増す気がします。意図してやっているのですが、もし他のキャラでカタカナになっていたらそれは誤字なので、教えていただけると嬉しいです。樽はクロウは気持ち悪い嫌な奴だと思っているので、比較的そういうキャラとして書いています。好きな方、すいませんです。

それにしてもコピーが完全にクロウの私兵になっている・・・・元からか。