ギアとは、生物を素体として、それに「GEAR細胞」を植え付けることにより、法力の開放や、戦闘に適した体に変化した生体兵器であり、一度ギアになればもう元に戻ることは叶わない。
生物であるならば、例外なくギアにすることは出来る。
人から鳥から大型の爬虫類など、変化した姿が原形を留めていないこともあるが、それはそれが一番適していたというだけに過ぎない。兵器が以前の姿に執着する必要もない。

私には意思があった。人型ギアを素体としたという特異な点があったからかは判らないが、私の意志は私に拒むことを可能にした。
人が与えた命令通りに、兵器として戦場に立ち、ギアという兵器の戦果を見せつけ、他国にもそれを知らしめた。すぐにそれぞれの国が挙ってギアを作り出し、戦場に立つ人の数が減った時、私はすべてのギアを従えて人に弓引いた。
製造コードによる統制というシステムを無視した私の“全てのギアを指揮下に置く”という能力は、人間側に大きな混乱を与え、そしてギアには好機を与えた。事態の把握も出来ない人を置き去りに、ギアを率いて日本を中心とした極東地域を壊滅へと追い込んだ。私の「焼け」という命令のままに、日本と呼ばれた島は焦土と化した。

素体が直接戦力に大きく差をつけることはなかった、戦力は火力の違いだけでは推し量れるものではなかったからだ。だが、素体が人以外であった場合にちょっとした問題が起こった。

眉はもうない・ないのだが、あった頃はそう呼ばれていたであろう眉間に指を当て、暫らく目を閉じた。意識したわけではないが、自然と顔は地面へと向く。軽い頭痛を覚えて、頭の中で自分は何を間違えたのかと自問する。
目の前にいるのは、従属型で爬虫類か何かを使用して大量に同型を作られたギアの数体で、法力を使うよりも発達した体躯で敵を屠ることを得意としているタイプだ。僅かに開いた口の隙間から赤い舌がだらりと垂れて、涎が滴り落ちて地面に染みを作っている。
意を決して顔を上げると、目の前のギアを見下ろし、
「この先の十字路に支援型が設置した罠がある、敵をそこまで誘い込め」
今いるのはギアが一月ほど前に滅ぼして人が住まなくなった街、拠点の一つとして使っていたが、付近で聖騎士団の姿があったと、斥候のギアから報告を受けた。
指差した先にはところどころ舗装されていたアスファルトが大きく抉れたが、何とかそこが道だと判るものが北に向かって伸びている。保険的には半壊といわれるかもしれないが、持ち主から見れば全壊と変わりない建物が道の脇に無残な姿を晒していた。
だが、目の前のギアは一様に私の指先を見ながら、小さく首を捻る。十字路とはなんぞ?といわんばかりの顔をしている、なぜかそんなことだけはよく判る。
「・・・良いか?先刻もいったが、聖騎士団が西で発見された」
と指を西に向けて指すが、ギアの目は私の指先そのものから離れず、指している先には向けられない。
「此処の本隊は東にある劇場跡を本拠として構えている、そこに向かうには恐らくこの先にある十字路を通るだろうが、確実をきすのにお前達に囮を任せたい」
ギア全てはもともと高い治癒力に加え、防御用の法術がすでに組み込まれて法力による攻撃に耐性がある。このギアほどの体躯ならば、囮として攻撃を受けながらでも十分持つだろうと考えてのことだったが、
「方角に対しての認識が・・・・」
それだけではないというのは判っているが、とりあえず今通じていないまず第一は、西という言葉がどちらを指すかだろう、方角自体は人以外もきちんと把握しているから渡れる。
だが指差したところで、指だけ見られても意味がない。頭を抱えたくなる衝動に駆られ、こういう時はどうしていたかを必死に思い出そうとするが、まずこんな状況に陥ったのは、初めてのはず。覚えのない経験を掘り下げようとしたことに違和感を覚えながら、頭を一度振ると、
「なぜ今此処に半自立思考型が一体もいないのだ・・・」
いってもしょうがないこと・現状が変わるわけでもない判りきったこと・つまりは無駄なことが思わず口をついて出て、自分の中にある人間のような部分に怖気と怒りが湧き上がる。
私の怒りに当てられたか、目の前のギア達が微かに興奮を見せ、慌てて鎮めるように目の前で手を振ると、躾けた犬のように静まった。
自分が何かを指示する時、どれほど人間であった時の尺度で考え指示しているのか思い知らされたようで、精神的に疲れを覚えた。兵器である自分が疲れなど・と叱咤するように一度眉間を指先で小突き、
「敵は発見次第殲滅せよ、ただし仕掛けた罠にお前達がかかるなよ」
というと、ギア達はまたぽかんとした顔でジャスティスの顔を見た。
罠といっても人が狩りに使うような虎バサミといった物質的なものではなく法力を組んだものだが、それすら判らないのか?と眩暈を覚えた。
「黒い球体に近付くな」
そういってみたものの、未だによく判っていないようで、仕方なく自分の顔の前でこれくらいの大きさで・こんな形だ・と両手を使って説明すると、ギアは動いている手を見ていて通じていない感じだけはひしひしと感じる。
本来は支援型でない自分がこういう法術を組むことはなく、組む為には自分で考えなければいけないのだが、出来ないわけではない。溜め息が吐けたらきっと吐いている、そんなことを考えながら、自分の掌の上にバスケットボールほどの大きさの黒い球体を出した。これ一つでは意味がない、幾つか用意されたこれの間に通ると、発動するものなのだが、殺傷能力があるわけではなく、動きを止めることを目的にしている。これが味方であるギアに発動したら、ただただ聖騎士団が有利になるだけ・という間抜けなことは避けたい。
「これには近付くな」
そういうと、ギア達はそろそろと私から距離を取り始めた、どうやら通じたらしく、球体をギアたちに向かって放り投げると、蜘蛛の子を散らすように逃げる。
法力を使うのは自分の爪を使う延長上のことだから、彼らもとても上手く使うのだが、こういった時にはいかんともしがたい。もっと人を素体にしたとはいわないが、半自立思考型に調整しなおして増やしてもらうことを申請しよう・そんなことを考えながら、どんよりと暗い空を見上げた。
□後書き 最初・・・人様のところで小さいジャスティスを見たんです。 あまりの可愛さにハァハァと興奮(変態)していたんですが、何故かそれがこういう形になったよ。

樽の中のギア観・聖戦に対しての考えが窺える一品。 人様のそれから著しくずれている。 ジャスティス好きだとギア側から見てしまうのですよ。