巻き上がる粉塵が視界を奪い、ジャスティスは戦場の中心で立ち尽くしていた。 かつては大きな都市だったそこも度重なる戦闘で瓦礫の山と化し、都市の周りも生を厭うかのように緑が姿を消し、赤や黄の土が傷跡のように辺りにさらされている。 乾いた風が土を巻き上げて埃の様に被った街は幾度目かの戦場となっていた。
滅多なことではジャスティスは戦場に立たない。 自分が死ねばギアは負けるとジャスティスは理解していたし、戦場に身を置きながら全てを見通し指揮することが出来ると己を過信したりもしない。 プラントで新たに生まれるギアの調整もジャスティス以外はまだ出来ない。 それらの理由からジャスティスは殆ど戦場に現れても参戦することはない。
だが、今ジャスティスは数ヶ月ぶりに戦場にいた。 拠点の一つが見つかり、聖騎士団が攻めて来たのだ。 後手に回ることの多い聖騎士団だが、これを好機となかなかの勢力を注ぎ込んで来ていた。
風に舞った飛礫が目にぶつかるのを避けようと左手を挙げた瞬間、右手側から土埃を割いて何かが飛び掛ってきた。 ジャスティスは大して慌てた様子もなく、飛び込んできたものが振りぬいた刃を指で掴んで止めると、顔だけを向け、
「何のつもりだ?」
ジャスティスの声は平坦で、とても首を切り落とされかけたことに対して気を害した様子はない。 真っ赤な大鎌を振った青年の姿をしたギアは、微かに驚いた顔をしていたが、
「申し訳ありません・・・・人と間違えました」
232cmあるジャスティスをいくら不自由な視界とはいえ人と間違えるというのは些か無理のある言い訳だったが、ジャスティスは特に何もいわずに指を離すと、行け・と顎でしゃくった。 青年は一礼するとその場から駆け出して、その背はすぐに粉塵の中に消える。
「ジャスティス・・・あいつあれで何度目だ?」
戦闘にも参加せず、ジャスティスの隣で戦況を見ているだけのギアがそういいながら、不満げな声を上げた。
「5回目だ」
短く答えると、ジャスティスの全く興味がないといった態度に、あ〜ぁと呻いて、
「いい加減ガツンと一発やれば良いのに」
「意味はない、私の統制下にはある。言葉を疑う必要はない」
「本当にあいつのあんな言い訳信じてんの?」
ありえねぇ・というと、きし・と音を立てて自分の右手の形を変えた。 人に近かった形状が鉤爪の様になり、爪の部分は仄かに発光している。 ジャスティスは隣のギアを一瞥し、
「むやみにギア同士で傷つけあうようなことはするな」
「しゃあないじゃん、人と間違えたら。似てたら特に・な」
先刻青年が口にした言い訳をそのままに、そういうとギアは土煙の中へと駆け出していく。 ジャスティスはその背も見送ると、不意に後ろへと数歩下がって、足元に現れた魔法生物の頭を踏み砕いた。 どうやら背後からジャスティスに噛み付こうとしていたらしいが、発現する前にジャスティスはその生物の背後に回っていた。 見覚えがないではなかったが、ジャスティスは何もいわずに戦場に背を向けその場を離れた。
「ギアとして役目を果たせばそれで良い」
そういうと、ジャスティスは背後から飛んできた髑髏を模した法術を尻尾で叩き落した。
□後書き テスタメントってばやんちゃさーん! つ)`ν゜)。・:・゜
一応元聖騎士団で、ジャスティスを諸悪の根源と思いながら、命令は拒めない。 できる限りは反抗しようとするテスタメントの図。
それが首狙って鎌を振る・じゃ激しすぎるよ。 ジャスティス簡単にあしらいましたが。
テスタメントは人間時・普通→ギア初期・普通→ギア後期・ちょっと強い、のイメージです。
ギアにならなかったら、さっくりギアに殺されてたと思うんよ。(コラ)