五感全てが機能しない。
目は開いている、光がない。
聴覚にも異常はない、音がない。
嗅覚も正常、匂いがない。
手が指が触れ合ったとしても、触れられたと感じない。
味覚のみ、確かめる術がないが、それは今更で問題ではない。
気を緩めれば、自分がどこに在るのか判らなくなるその空間、その中で許された数少ない一つ、思考は同じところを巡る。
何故自分が此処にあるか、聖騎士団に封印されたから・と答えは知れる。
何故封印されたのか、敗れたから・と答えは出ている。
未だ人が自分を倒しうるほどの昇華は果たしていない、誰に?―――あの男に。
まずそれに思考が及ぶと、えもいわれぬ感情が沸き起こる。
それを飲み下し、思考を続ける。
何故敗れたか、人ではなかった、ギアであった、ギアならば自分を倒しうる能力があることは理解できる。
だが・・・何故ギアならば自分の指揮下に入らないのか?何故あのようなイレギュラーな存在があるのか?
どれだけ考えてもその答えを得ることが出来ない。
その間にちらつくあの男の顔に、激しい苛立ちを覚える。
不快だ。
封印されてどれほど時間が経ったのか、その間指揮を欠いたギアがどれだけ破壊されるのか、どれだけ「人類完殺」という目的から遠ざかるのか。
自分のある意味を侵すあの男の所業に思考が及ぶと、その先が乱れて答えが霞む。

何もない空間で、自分の法力が揺らぐのを感じる。
結界のどこかで綻びが出ている、人間が作った恐らく最も強固である次元牢をもってしても、自分の力を押さえ切ることが難しかったようだ。
いずれこの牢は自ずと壊れるのだろう、だからといってそれを悠長に待つつもりはない。
小賢しいことに、結界の一部に勝手に自分の法力を使い、維持に当てている。
搾取され、内から壊すのには少し骨が折れるが、それでも皹の入った器を破るのは不可能ではない。
人間が作ったこの籠を解析し、それを破る為にすべきは、綻びを広げること。
未だ外への干渉は出来ないが、出来るようになれば残るギアを使ってどうとでもなる。
綻びが広がるのを待つ間、また思考へと沈む。
それは繰り返し繰り返し、回る。

あの目を知っている?知らない?覚えがある?少し違う。
誰と?どこが?判らない。
あれは誰だ?背徳の炎・・・自分の指揮下に入らないギア。
ではどうする?異常が他に感染する前に排除する。

この感情は何だ?何かが滾る、高揚する、だが焦りにも似た不快さがある。
怒りに近い、怒りならば理解できる。
排除すべき敵、意義を犯す敵、目的を阻む敵、討つべき敵に向ける感情として怒りは間違いではない。
これは怒りか。
あの金色の目がちらつくたびに、不愉快な気分になる。
その目は知らない・と、思う。

堂々巡ると判っていても、することもないこの場所、同じことを繰り返した。
僅かな違和感と、怒りがその答えを導き出せないことへのものだと、気付かなかったわけではないが。
自分をごまかすようなすり替えを繰り返すこともまた、ただの時間つぶしだ。
回る思考の中、確実に積もりゆくのは憎しみ。
この封印が解けた時、必ず・・・・あの男を討つ。
そこに思考が及ぶ頃、少し不快さが薄らぐのも繰り返し。
□後書き
五年、五年間もジャスティスは次元牢の中にいたんですよ。その間何考えてたのかな・・・と。

以前はもっと余裕がある感じだと思ってたんですよね、「戒めなど無意味」とか「これで封じたつもりか」という台詞を聞いていたので、ジャスティスの封印はテスタメントが解くような動きを見せないでも、何れは勝手に解けちゃうもんなんだ・と思っていたので。それがテスタメントの働きで少し早まったんだ・くらいに思ってました。そして、封印されている間、多少ギアが破壊されて減らされても、自分がいれば聖戦は勝てると、当然のように思っていたと思います。ソルには次は勝つ・って考えてたんじゃないかな。

封印されている間、ソルのことばかり(語弊がある)考えていたというのは、もしそうならそれはそれで萌えるが、ディズィーのことが心配で心配でしょうがなかった!とかだと良いなァ・・・・。まぁ・・・もしそうなら、封印解けた直後、あんな悠長に人の相手しないで、探しに行くと思うんだけどね。さくっと倒して、ゆっくりディズィーを探すつもりだったのかな?それならありか。