「ッが!!!」
的確に顔面を捉えたその拳は、重く鼻に突き刺さった。といっても、拳自体が大きく、顔全体を打ったというほうが的確かもしれない。殴られた勢いで後ろに倒れそうになるのをどうにか踏みとどまり、打たれた顔を押さえれば、何かで指がぬるりと滑る。
一瞬息が出来ずに、また何が起こったかも判らずに目を白黒させた。とりあえず殴られたと把握したのは、目の前で仁王立ちした殴った張本人を見た時だった。
「・・・・なんでテメェが此処にいやがる・・・」
白い巨体に赤い髪、ソルが打ち倒したはずのギアは、こぶしを固く握り締めたまま、そこに立っていた。
「死んだ筈だろうが・・・・コピーか?」
ソルの言葉に、ギアの体が微かに震え、風を切るような音と共に、右ストレートがまたソルの顔めがけて放たれた。が、今度はそれがぶつかる前に、手首を掴んで止める。と、いうのは簡単だし、見ている限りでは大したことではないようだが、お互い馬鹿力だ。力が入っている為に小さく震えている。
「痛いだろうが、離せ」
「いきなり人の顔を殴った奴がいえる台詞かそれが・・・!」
ジャスティスの装甲に包まれた手首がみしみしと音を立てて、握りつぶされるのではないかという中、
「・・・コピーじゃないみたいだな」
「それを口にするな!!」
問答無用で法力を使ってこない様子に、ソルがそういうと、ジャスティスの髪がふわりと広がり、空いていた左手を今度は突き出した。それも押さえると、
「テメェは死んだんじゃねぇのか?」
「死んだ」
「じゃあ何でいやがる!」
「知らん」
簡潔なジャスティスの返答に、ソルが言葉を詰まらせた。
「・・・じゃあ・・・何しにきやがったんだ」
掴まれた手をどうにか振りほどこうとしていたジャスティスは、ソルの言葉にその動きを止めて、少し考え込んだ後、真っ直ぐな目で答えた。
「行き場のない、だが決して内に抑えることができなかった怒りを発散する為に、貴様を殴りに」
「よし判った・・・奇遇なことに今俺も同じような怒りを腹に溜めてるから、テメェを殴らせろ」
殴らせろといいつつ、ジャスティスの手を引きながら、ヘッドギアを着けた額で頭突こうとしたソルに、
「何をいう!元はといえば貴様がいけないのだ!」
ジャスティスは噛み付くようにいった。もともと身長差的に頭突くには無理がないでもなかったのだが。
「・・・・ぁあ?」
謂れのない言葉に、動きを止めたソルが低い声で唸ると、ジャスティスはくぅ・と呻いて顔を逸らした。
「・・・俺が何をしたっていうんだ」
「・・・・人の話を聞こうなどと・・・頭でも打ったか?」
「あぁーあぁー・・誰かさんの所為で今先刻顔なら打ったが、頭は打ってねぇ・・・・!」
よっぽどのことがあったのかと思い、一応聞こうとしたソルの態度を訝しんだジャスティスの言葉。普段のソルの様子を知っていれば、仕方がないといえば仕方がない反応ではあったのだが、とりあえず食って掛かっても話の本筋が見えないと、ソルは我慢した。一応これでもした。
「あのクロウとかいう愚かな人間が!私のコピーを作ったというではないか!」
「・・・・それが何で俺が悪いってことになるんだ」
「貴様が私を殺したのなら、私の力が人の手に渡らぬようにするのは義務だろうが!何の為にギアを殺して回っていたのだ!それを・・こうも簡単にコピーなど作らせるなど、言語道断だ!」
「まだあれがどうやって作られたか判らねぇだろうが!一から作られたんじゃ、俺にはどうしようも出来ねぇ・・・!」
「あんな愚かなことをする人間、何故殺せない!?たかが一人に手こずるな、しかもあんな出来損ないのコピーなど数ではないだろう」
「・・・・あのなぁ・・・・・・・・・・(三十秒経過)・・・・・・・・・めんどくせぇ」
ジャスティスの言葉にソルは反論しようとしたが、暫らく口を開けたまま次の言葉をいおうかいうまいかと迷う内、呻いて口を閉じた。お互い顔をつき合わせていい合っていたが、決して力を抜くことはない。ソルが手を離せば、ジャスティスは恐らくまた殴ろうとするだろう・というソルの読みは当たっていた。雷を使ってこないだけ、もしかしたら良心的なのかもしれない。
「とにかく!そのコピーの所為でディズィーがおかしなことをいって来たのだ!」
「・・・ディズィーが・・というか・・テメェら会っているのか?」
「ディズィーがうちに来ていうにはだな」
「待て」
一つ目の問いを無視されたことはソルもまぁ良いか・と思っていた。『死んでいる』と当人でいいながら此処にいる・という珍奇な状況に比べれば大したことはないと思ったからだ。だが、
「うちって何だ、テメェ家があるのか?」
「・・・・そういえばおかしい・・・なんだ私のうち・・とは」
自分でいったことながら、ジャスティスは首を捻っていた。だが、その時間も短く、
「とにかく、ディズィーが私のところに来てコピーのことを知ったのだ。何故私が料理洗濯掃除・と家事などせねばならないのだ!」
「・・・・家事?」
首を捻るソルに、ジャスティスはそうだ・と頷き、
「クロウがコピーの武装解除したものを安価で売ろうとしている、その謳い文句が家事手伝いの人形として!かつてギアを率いて戦った私を何だと思っているのだ!!!人間に『お帰り』などと何故いわねばならない!」
「その怒りは俺じゃなくて当人のあの胡散臭いのに向けられるべきだろうが!」
ソルのもっともな言葉に、ジャスティスはむぅ・と唸って、
「そのコピーを携えてクロウが私のところに自慢に来たのだ、自分が作ったものの方が優れている・と」
そういった瞬間、ジャスティスは何か思い出したのか、入れていた力が抜け、それに拮抗するように力を入れていたソルは、バランスを崩す前に慌てて力を抜いた。ジャスティスは手を下ろすと、微かに俯き、
「・・・人のいうことを忠実に聞く自分の姿を見せられるというのは・・・・あまりに不愉快だ、それがギアとしてあるべき姿だと人がいったところで・だ。・・・それに」
といったジャスティスだったが、次の言葉はなかなか出てこない。顔を片手で隠すように押さえたまま俯いている。
「足として使われているということは・・・この際良いとしてだ、百歩・・いや千?万でも足りないな・・仮に譲ったとしてだ、何故あんな男を抱えている自分を見せられねばならない・・・」
「そういや・・・・あいつ逃げる時に抱えられてたな」
粉塵巻き上がる中ではあったが、ジャスティスに抱えられて・という間抜けにも見える絵面の中でも自信に満ちた顔を崩さなかった男を思い出しながら、ソルは苦い顔をした。ジャスティスは未だに俯いている。
「抱えられていることが羨ましかったのか、ディズィーがいうものだから“ヒメダッコ”ということをディズィーにしたのがいけなかったのかもしれない・・・・」
「ちょっと待て」
ジャスティスの言葉の中の聞き慣れない単語に、ソルは思わず手を上げた。なんだ?と首を捻るジャスティスに、
「“姫だっこ”ってのをしたのか?」
「した・・・といっても抱きかかえられているのが羨ましいようだったから、一度同じようにやったら“ヒメダッコ”が良いといわれていう通りに抱きなおした。・・・・あれは抱きかかえられている相手の姿勢が苦しいだけの気がするのだが、そんなに嬉しいものなのか?」
「その辺は抱えている相手がちゃんとそれだけの力があれば多少変わる、それより・・・・ディズィーは何を考えて・・・」
呆れたように呻いたソルを余所に、ジャスティスは深い溜め息をつき、
「それから二人の不毛な言い合いが始まって・・・・」
「言い合い?」
どんな・と聞こうとしたソルの前で、ジャスティスはよろよろと膝をつくと、眉間に深い皺を刻んだ。。
「私にはどうしてもあんなことは出来ない!」
じわり・と目尻に浮かんだ涙に、ソルは声こそ出さなかったが驚いた。泣けるのかと最初は驚いたが、ギアも生物としての特性がある。目にゴミが入った場合や、純粋に乾燥を防ぐという意味で、涙は出るのだろうが、明らかに感情によって今ジャスティスは涙を浮かべたのだ。ソルは思わず手を伸ばしたものの、どう声をかけて良いか判らずにその手は宙を彷徨った。
「・・・だが、一度でも・・一度でもすると答えた以上はしなくては・・・あの子の願いなら何でもしてあげたいのだ」
滲む涙を慌てて拭い、顔を上げたジャスティスに、
「何を頼まれたんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(十分経過)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一緒に踊れといわれた」
あまりに長い沈黙に、答えたくないのかとソルが思い始めた頃に、消え入りそうな声でジャスティスはそう答えた。ギアの耳は感度がよい為、十分拾えたのだが、一瞬聞き間違えたかと思った。ソルがあ?と聞き返すと、ジャスティスはまた目尻に涙を浮かべて、
「ディズィーが一緒に“ウマウマ”?というものを踊れといい出した!」
やけになったように大きな声でそういうと、また滲む涙を手の甲で隠す。当初は困惑したソルだったが、ふん・と鼻を鳴らすと、
「泣くほど嫌ならやりたくねぇ・といやぁ良いだろうが」
くだらねぇ・といったソルに、顔を上げたジャスティスは鋭く睨み、
「泣いていない!!・・・貴様には判るまい・・!ディズィーの願いを私は断れない、私だって・・・・私だって最初は無理だといったのだ」

「お母さん!一緒に踊ってくれますよね?」
形の良い眉をきゅっと寄せて小さな皺を刻み、縋るような目で見上げるディズィーに、ジャスティスは当惑した様子で、
「踊れ・といわれても私は兵器で、そういうことをする為にあるわけでは・・・・」
「大丈夫です、お母さんなら出来ます!」
何処から来る自信なのかは判らないが、力強いディズィーの言葉。ジャスティスが無理だ・と首を横に振ってもそれは変わらない。
「無理なんでしょー、お母さん困らせちゃ可哀相じゃなぁいィー?」
挑発するようなクロウの言葉に、ディズィーの細い肩がピクリと震えた。クロウの横に立つコピーはふわふわと尻尾を揺らしながら、ジャスティスをじっと見ている。その視線が多少気になるジャスティスだったが、今は目の前の何故か熱くなっている娘の方が問題だ。
「ディズィー・・・私はディズィーのいうその踊りのことも判らないし、やはり出来ない」
「知ってたら出来るってことォ?んじゃ、コピーにさせてあげようか」
ジャスティスがディズィーにいった言葉に、ディズィーが答えるより先に、クロウが反応した。懐から出した小さな機械―ブラックテックなのは明らか―のスイッチを押すと音楽が流れ、踊れ・といったクロウの言葉に従ってコピーは踊って見せた。
「・・・・・」
それを見たジャスティスは言葉を失い、よろよろとした動きでそれから体ごと背けて視界から消すと、
「無理だ、出来ない、すまないが無理だ」
短くそう答えたジャスティスの手を引き、
「出来ます!」
力一杯いうディズィーに、ジャスティスは首をぶんぶんと横に振り、
「お願いだからさせないでくれ」
自分と同じ姿をしたものが踊っているのを見ただけでこのダメージだ、自分でそれをしたらこれ以上だと思うと恐ろしくて想像することすら出来ない。ジャスティスは頑なに出来ない・と拒むと、それまで手を引いていたディズィーの手がゆるりと解けた。
「ごめんなさい・・・・・」
しゅん・としょげた様子で頭を下げたディズィー。ごめんなさい・と繰り返すディズィーに、ジャスティスは慌てた。
「お母さんに我が侭をいってしまって・・・・本当にごめんなさい」
「ディズィー・・・」
「お母さんに我が侭をいえること自体・・・今まで出来なかったことだから」
ぐさ・という音がどこかでした。ジャスティスの動きがぎしり・と軋んで鈍くなる。
「お母さんと一緒に何か出来たら嬉しいな・って思って・・・・でも困らせてしまって・・・私悪い子ですよね」
もっと母子らしいこと他にあると思うけどなァ・とうっかり口を滑らせたクロウはネクロにつるし上げられて、短い悲鳴を上げた。そういう惨劇が背後で繰り広げられているとはとても思えない様子で、じわりと目に涙を浮かべ、ディズィーの言葉はまだ続く。
「私お母さんと一緒にいた記憶が全くなくて」
BEAT2
「優しいお父さんとお母さんに拾ってもらって、本当の娘のように育ててもらいました。幸せだった・・・・でも、人より早く成長することで・・・村に居づらくなって」
BEAT3
「ネクロやウンディーネが出てきた時にはお父さん達も私を守る為といって、私は森で独りで暮らすことになってしまって。・・・どうして自分が人と違うのかも聞ける人もいなくて、寂しくて不安で・・・三年も」
BEAT4、5
「人には恐ろしいギアだといわれて命を狙われて・・・・私が望んで得た力じゃなかったのに」
BEAT6、7
「死んだ方が世の為だと見知らぬ女の人に高度数千メートルから落とされたり、僕のものになれと変な男に迫られたり」
そのいった当人は今後ろで虫の息だったりするのだが、ディズィーにはどうでも良いことらしい。ディズィーの話は未来にも及ぶ。
「私を愛している・といってくれる方と出会えて、子供にも恵まれたのに・・・やはりギアの血の所為で子供とは離れ離れ、私も表立って出ることが出来る身ではなく」
BEAT10、11・・・
「同じ細胞を持つからと鍵の為といって昇華されかけたり、敵の手に落ちたら危ないと殺されそうになったり」
「本当にすいません」
そういったジャスティスは、ゆっくりとした動きで頭を下げた。ジャスティスが誰かに頭を下げる・という行為に、珍しいものを見た・と写真を撮ろうとしたクロウはウンディーネに氷付けにされた。すでにディズィーの言葉のダメージ(BEAT10を超える見事なコンボ)でだいぶふらふらではあったが、ジャスティスは青い顔で、
「喜んで一緒に踊らせていただきます」
絞り出すような声でそういうジャスティスの目には涙が滲んでいた。

「というわけだ」
憔悴しきったジャスティスの言葉に、ソルは何もいえずに押し黙った。
「・・・・人の目がないところで二人きりの時にやる・という約束はした・・・・だが、会えばきっとやらされるだろうと思うと私は恐ろしくて・・・こうやってあの子を避けて」
私は卑怯だ・と真面目に凹んでいるジャスティスに、あー・とソルは呻きながら、
「・・・・まぁ・・・・・なんだ・・・」
「頑張れなどと抜かしたら貴様・・・判っているだろうな」
ぎらりと光る金色の目でソルを睨み、並みの人ならば震え上がりそうなその迫力に、ソルは小さく鼻を鳴らし、
「んなこたぁ、しねぇ」
短くそういうと、足元に転がっていた封炎剣と荷物を持ち上げ、
「ディズィーに会いにいく」
「・・・会ってどうするつもりだ?」
ソルの発言に、露骨に訝しむジャスティスだったが、ピクリ・と尻尾の先を震わせて、慌てて天を仰いだ。ソルもそれを追って同じように見上げると、視界に入ったのは膝だった。
「ッ!!」
「ソルッ!!」
空から重力に従って高速で降ってきた膝は、意識をやすやすと奪った。ヘッドギアに直撃したのは不幸中の幸いだったかもしれないが、ソルは首にかかる負荷に、仰け反り倒れた。そのまま地面に仰向けに倒れたソルの上に、降り立ったのはセーラー服のディズィー。といっても、膝が直撃した瞬間翼を広げ、落ちる速度を緩めて着地したのだが。心なしかジャスティスは顔を引きつらせながら、降って来た愛娘に一歩近付いた。
「何故・・・空から?」
「快賊船で上を通っていたらお母さんがいるのを感じたので、飛び降りちゃいました」
照れ隠しに微笑う娘に、そうか・としかいえないジャスティス。ソルの上から降りたディズィーは嬉しそうにジャスティスに駆け寄り、
「最近お母さんに会えなくて寂しかったです」
「すまない・・・」
と、小さく謝りながら、ジャスティスは起き上がらないソルに目を向けた。数千メートルは上から降って来たディズィーの力が首にかかった、折れてしまったりはしていないだろうか?と案じたのだが、ソルは動く様子がない。ジャスティスの視線を追ったディズィーは、そこでようやく倒れているソルに気がついた。
「膝が痛いと思ったら・・・私ソルさんの上に?」
痛いだけなのか、わが娘ながら丈夫な・と思いつつ、
「危ないから、今後は軽々しく飛び降りたりしないようにな」
そういうジャスティスに、ディズィーははい・と頷いた。そして、動かないソルを見ているジャスティスに、おずおずと切り出す。
「あの・・・この前の約束・・・」
ギクリ・と露骨に体を強張らせたジャスティスは、あぁ・と小さい声で答えたまま、二の句も告げなくなる。ディズィーから顔を逸らしながら、押し黙ってしまったジャスティスに、
「此処でとはいいません、お母さんは人に見られたくないっていってましたから!だから悪魔の森に行こうと思って」
悪魔の森にいるギアのことを思い出したジャスティスは、間の悪いあの男は絶対に現れるだろうと、なかなか的確なことを考えていた。それに、最近はあの森には人が多く出入りするようになってしまった。誰に見られるかは判らない。
行きましょう・と手を引くディズィーに、待ってくれ・と渋るジャスティス。
「ディズィー」
不意にかけられた声に、ディズィーは足を止め、ジャスティスと共に振り返った。見ればいつの間にか起き上がったソルが、首を支えながら立っていた。ギアとはつくづく丈夫なものだ・とジャスティスが内心で驚いていると、
「ジャスティスに躍らせたいらしいな」
ソルの言葉に、ディズィーはジャスティスの顔を見た。ジャスティスは気まずそうに顔を逸らす。
「何でそんな話になったんだ」
「そ・・・それは・・・あのクロウっていう人が・・お母さんよりコピーの方が凄いって・・お母さんより勝っているって。私悔しくて!」
それで何故踊りになるのか、今の会話ではまだ判らないソルは、ディズィーの言葉を待った。
「大体あの人はおかしいんです、お母さんを家事手伝いの人形のように使おうとするなんて・・!“ジャスティスには出来ないでしょ?”っていったんですよ?」
その時のことを思い出したのか、それは悔しそうな顔でディズィーはうー・と唸った。横でこっそりとジャスティスが溜め息をついている。
「あまりに悔しかったから“お母さんなら出来ます、必要がないからしないだけです!”といってしまって・・・・」
「それからは聞くも不毛、語るも不毛な言葉の応酬・・・いつの間にか踊りがどうのという話になったのだ」
あえて口には出さなかったが、ソルの顔はありありとくだらねぇ・と語っていた。ジャスティスもまさにその通りなので、ソルのその視線に耐える。
「良いかディズィー」
神妙なソルの声に、ディズィーははい・と畏まった様子で返事をすると、
「むしろ踊ったら負けだろ」
「!!」
ソルの一言に、ディズィーはポン・と手を一つ打った。
「破壊神と恐れられたギアが踊る必要はない、こいつの矜持が崩壊するだけだ」
更にソルの言葉は続く。
「大体、家事手伝いの人形と競うこと自体意味がない、勝って当たり前なんだ。比べる畑も違う」
「!・・・お母さんごめんなさい!私・・・お母さんが出来ない・とか負けるっていわれるのが我慢できなくて」
ジャスティスへと向き直り、ディズィーは頭を下げた。ぼろぼろと涙を零しながら、
「特にあんな・・・お母さんを利用することしか考えない人間なんかに・・・お母さんを馬鹿にされたくなくて・・」
ぐずぐずと鼻を啜るディズィーに、気にするな・とジャスティスはディズィーの顔を上げさせると、その頭をやんわりと尻尾で撫でる。ギュウ・と抱きついたディズィーを、眼を細めて見下ろすジャスティス。それを見ながらソルはやれやれと呻いた。

「礼はいわんからな」
「いえよ」
そういうソルのうなじに、ジャスティスは布で包んだ氷を押し付けた。布はもともとソルの荷物に入っていたものだが、氷はジャスティスが法術で出したものだ。同じもので少し小さいものを、ソルは自分で鼻に押し付けている。冷たさにソルがびくりと体を震わせるのを半眼で見ながら、
「で・・・・今私に鼻血やら痛めた首やらの手当てをされて、まだそんなことをいうのか?」
「ちっ!まぁ・・・てめぇの泣き面なんて不快なもんをこれ以上見ずに済んだと思えば良いか」
ソルの言葉にジャスティスの指先が震え、ぎろりとソルを睨みつけると、
「泣いていない!」
左手でソルの頭を掴むと、ヘッドギアごと締め上げた。みしみしと音を立てているのは頭かヘッドギアか、慌てたソルはジャスティスの手首を掴む。が、そこでジャスティスは手を離した。
「冷やしておけば良いだろう、鼻血もとうに止まっていたしな・・・・あとは自分で持て」
そういってジャスティスは氷から手を離すと、慌ててソルはそれを自分で押さえた。ジャスティスは立ち上がると、ソルのヘッドギアを尻尾で弾き、
「では・・・な」
声をかける暇もなく、さっさと転移で立ち去ってしまった。
□後書き
ディズィーはジャスティスが嫌いだからあぁいうことをいったんじゃなくて、ちょっと手段を選ばなかっただけです。(それもどうだ)

ジャスティスのウマウマが見たいなー・という横縞な念がなせる技。でも途中で可哀相かな・とオチ変更。ちょっとディズィーがアホの子のようです、あの子の母親だからね!冗談です、サーセン。orz

ついでのようにいったけど、どちらかというと重要なのは「矜持の崩壊」だよね。勝ち負けに視界が狭まっているディズィーだからあぁいったけど。普通に考えて勝ち負けなんてジャスティス興味が絶対ない以上、プライド大事だよ。

踊っているところが自分で描けたら、躍らせるオチにしたかもしれません。

謝礼を要求するソル・とか考えたけど、おかしな方に話が流れそうだから止めました。ジャスティスはディズィーにしかデレないのが我が家のデフォ!“ジャスデレ”というのはそういう意味だと樽は解釈した。

 最初はジャスティスはぼろぼろと泣いていたし、ディズィーに土下座までした! が、そこはやっぱりギャグでもやり過ぎだろうと思って書き換えた。