右肩に感じたのは衝撃と呼ぶほどもない、誰かに軽く叩かれたようなものだった。最初は叩かれたのかと思ったくらいだ。だが振り返りはしなかったのは、振り返る前に自分の肩を踏み越えた影が通り過ぎたからだ。白い姿に、靡く赤い髪が炎の様だ。その背中を見た瞬間、反射的に尻尾を掴んでいた。
「ッ!!」
短い声ともいえない声が漏れたのが聞こえた。前に進む力は尻尾を掴まれた所為で、向きを変えて体は地面へと向かう。しまった・と思ったがもう地面にぶつかりそうな白い影、まぁ十分手をつく余裕はあるようだったが。まずいことをした・と腹の中で呻いたソルの左肩を、今度は車にぶち当たられたような衝撃が襲った。ソルが踏鞴を踏んで、バランスを崩すほどの衝撃、思わず手から尻尾がするりと抜ける。そしてソルを足蹴に飛び越えたのは、
「ジャスティス!!」
「あああああああああああああああああああああ!!!うっとおしいといっているだろうがぁッ!!!」
地面に膝をつき、立ち上がろうとしていたジャスティスの背中に飛びついたのはコピー。ギュウと腰に抱きつかれ、ジャスティスは心底嫌そうな悲鳴を上げていた。
どうやらジャスティスはコピーから逃げていたらしい、つまりソルはその邪魔をしてしまったということになる。落ちるだろう雷に、ソルは逃げられるように心積もりだけはした。
「53時間6分57秒、ジャスティスに会わなかった所為で、処理速度が落ちた」
何を根拠にはっきりといい切ったのかは判らないが、そういってジャスティスの赤い髪に顔を埋めるコピー。背後から抱きしめられたジャスティスは、手を振り回して追い払おうとするが、稼動範囲に限界があり、それも上手くいかない。尻尾だけは善戦しているが、相手は両腕で抱きついているのだ、尻尾一本では勝てない。
「抱きつくな!気色の悪い!!」
ジャスティスが怒鳴るが、コピーは聞く耳持たずにジャスティスを離さない。
「その前は127時間43分5秒会えなかった」
「・・・・127時間44分24秒会わずに済んでいたと記憶している」
コピーの言葉を訂正したジャスティスに、コピーは首を傾げた。
「そうだったか?」
「私に会うことと処理速度は関係ない」
「ストレスによって影響があるのだ」
ジャスティスがうんざりしたようにいうと、コピーはこともなげにそういった。ジャスティスは自分の腰にがっちりと回されたコピーの腕を引き剥がそうとするが、そこは流石コピーといえどジャスティスなだけはあり、簡単にはいかない。
「このッ―――!」
「助けを乞うなら助けてやっても良いぞ」
ジャスティス同士のじゃれ合い(当人が聞いたら烈火のごとく怒るだろうから口には出さない)を、傍観していたソルは、ジャスティスに向かってそういった。コピーを引き剥がすことで必死だったジャスティスは、そこで尻尾を掴まれたことを思い出し、
「ッ―――!貴様はどの口でいっているのだ、誰の所為でこうなったと思っている!」
吼えるように怒鳴るジャスティス、それを受けてソルは、
「なら放っておいても良いんだがな・・・自力でそれ剥がせるのか?」
「ッ!」
「ソル=バッドガイ?いたのか?」
「・・・・人を足蹴にしておいて、今の今まで気付かねぇか?」
コピーの言葉にソルが微かに頬を引きつらせると、コピーは一つ頷いた。
「足蹴にしたかも覚えがない」
悪びれた様子もないコピーの言葉に、ソルは無言で封炎剣を振り被ると、コピーの頭目がけて振り下ろした。が、流石にそれはコピーも尻尾で受け止めて防ぐ。その後も続くソルの攻撃を尻尾で弾きながら、
「腑抜けが」
コピーの一言に、ソルの右腕が炎に包まれた。
「多少の火傷は我慢しろ、それが剥がれるんだから文句はいうなよ」
「ジャスティスに怪我をさせるようなことは見過ごせん」
「貴様が離れれば済むだろうが!!」
ジャスティスが背後のコピーに向かって怒鳴った瞬間、
「お母さんに馴れ馴れしくくっつかないで下さい!」
ごすん・という音がジャスティスの背後で響き、コピーの手がするりと解けた。ジャスティスが振り返れば、ディズィーが形の良い眉を寄せ、うぅ・と打たれた頭を押さえて蹲るコピーを睨んでいた。どうやらネクロの拳が炸裂したらしい。
コピーから解放されたジャスティスは、すぐにコピーから距離をとり、そんなジャスティスにディズィーは駆け寄った。
「大丈夫ですか?お母さん」
「ありがとうディズィー、助かった」
そういって頭をやんわりと撫でると、ディズィーは嬉しそうに頬を緩めた。
ソルは腑抜け呼ばわりされた鬱憤を、しっかりとコピーで晴らしていた。コピーも黙ってやられはしないが、やはりソルの方が強い。徐々に防戦に陥るコピー。
「むぅ・・・以前よりも攻撃が重い、データ更新」
コピーはそういいながら、ソルの攻撃を捌き受け流していたが、深く踏み出したソルの振りぬく封炎剣を防ぐことをせずに、強引に首を掴んで力一杯放り投げた。ガラリと音を立てて攻撃を受けた腹の装甲が砕けるが、
「マスターの呼び出し・・・今日は帰る」
「あぁ?」
「待てコピー」
帰るといい出したコピーにソルが低い声で唸り、持っていた剣から赤い炎を立ち上らせる。だがその肩を掴んで押し止め、ジャスティスが一歩前に出た。帰ろうと転移法術を組もうとしていたコピーは、その動きを止めてジャスティスを振り返った。尻尾の先がチョコチョコと揺れ、その目には何?と期待が少し窺える。大部分は警戒だったりするのだが。
「忘れ物だ」
そういうと、ジャスティスは掴んでいたソルをそのままコピー目掛けて放り投げた。突然のことに、放り投げられたソルも対応出来なかったが、バクンという音に、体を硬くした。
避けるか受け止めるかのほんの短い逡巡、コピーはソルを真正面から受けて、体勢を崩した。そして、それから一拍と置かぬタイミングで、凶悪な法力がコピーとソルの体を打った。


「何で俺まで一緒に喰らわなきゃならねぇ」
ガンマレイの直撃を受け、ディズィーに手当てをしてもらいながら、ソルは不満げにそういった。直撃後に半泣きで去ったコピーの転移先をトレースしようとしていたジャスティスは、その言葉に法術を中断し、
「誰の所為で私がコピーに追いつかれたのだ?」
「悪いと思ったから手を貸しただろう」
「私を助けてくれたのはディズィーだ」
はいー・と嬉しそうに微笑うディズィー。だが、包帯を巻く手に力が入ったのか、血が止まりそうになる。痛くすらあり、ソルがディズィーの方をちらりと見ると、
「・・・・助けて下さろうとするのは良いですが、お母さんに怪我をさせようとするのは・・・・」
「何だ・・・これはわざとやってるのか」
ソルの顔を冷たい目で睨むディズィーに、ソルはやれやれ・と呻いた。ソルの様子に、ジャスティスがディズィーの手元を覘くと、ディズィーは何事もないように包帯を緩めた。ソルは微かに頬を引きつらせたものの、何もいわないで置く。
「トレースには成功したが、ダミーらしい座標がいくつか混じっているな。どこにアジトがあるかまでは確かめる気にもならん」
つまらなそうにそういうと、ジャスティスは浮いた足元を払うように尻尾を振る。ソルはその尻尾の動きをじっと見ていたが、
「学習しないのか?」
ヒタリと冷たいジャスティスの声に、ソルは自分がジャスティスの尻尾をまた掴んでいることに気付いた。
「目の前をうろうろ動かれると・・・気になるんだろうな」
掴んでいた尻尾を離すと、その尻尾の先でヘッドギアを強打された。ヘッドギアごしながら、頭に響くその一撃。何故かまたディズィーは包帯をきつく巻き始めるし、とことん暴力的な母子だ・と腹の中で呻いた。
□後書き 読み返すと、何処が“夫婦だ”という感じですね。すいませんです。後書きの中で謝ってないものはどれ位あるんだろうか・というくらい謝ってます、すいません。
ジャスティスの尻尾がゆったりゆらゆらと揺れているのは、ゲーム画面内でもガン見していたりしたので、「掴みたい」というのは樽の欲求です。目の前にあったら掴んでます、樽は。
そして、ディズィーが何事もないように途中参加しているのに、後から「何でいるんだ」とか思う樽。計画性がないです、その場ののりで書くとこういうことになるんですね、全く。恐らく・・・・気配二つを感じて、母親を案じて駆けつけたんだと思います。ディズィーは母親思いの良い子だって信じてる!