「あぁ、待っているよ。フレデリック」
□目の前の変わり果てた友人は、浮かされたような声音でかつての名を呼ぶ。
「黙れ!」
□立ち上がり、怒声のように声を張り上げると、
「俺は・・・・・・俺はソルだ。ソル=バッドガイだ!」
□そう叫びながら、まるで拒まれるかのように体が空間から徐々に弾き出される。 睨みつけていた相手はゆっくりと頭をこちらに巡らせると、
「ださッ!」
□ポツリと、しかしはっきりとそういった。 思わずソルの額に青筋が浮かび(ヘッドギアで見えないが)、飲まれかけていた体を強引に動かして男に掴みかかった。 輪郭を失っていた体がそれを取り戻して、男の胸倉を掴む。 まさかそんなことをするとも出来るとも思っていなかった男は、ろくに抵抗も出来ずに掴まった。
「てめぇ今何つった!なんていいやがった!!」
「早く戻らないか、フレデリック。 先程までの場所よりはひどくなくとも此処はバックヤード、長く留まればその分だけ君の負担になる」
「ださッ・ていいやがったな!」
□話を逸らそうとしているのか、取り合おうとしなかった男だったが、ソルの剣幕にあぁ・と呻いて、
「君のその名前のセンスはどうかと思うね」
「んだと・・・・!」
「絶対その名で呼んだりしないからな、僕までその有り得ないセンスを認めたことになるじゃないか!」
□ソルは文句をいう前に、男の顔めがけて頭突きを入れた、もちろんヘッドギアをつけたままである。 胸倉掴まれては避けれもせず、がッ・と短い悲鳴を上げて頭を仰け反らせた男は、打たれた顔を手で押さえた。
□ソルはぺッと男から手を離すと、男はそのまま顔を抑えてしゃがみ込んだ。
「”that man”なんて呼ばれてる奴にいわれたくねぇよ」
「僕は自分で名乗ったわけじゃない、それは便宜上だし、普段は”あの男”だろうが。こんな時だけ英語使って出身国アピールするな」
「してねぇ!」
□低くドスの聞いた声でそういうソルに、男は未だに顔を抑えたままだったが顔を上げると、
「絶対そんな名前で呼ばないからな、フレデリック」
「お前が吹いて回っている”背徳の炎”はダサくねぇってか?」
「君が名乗っているそのダサい名前を僕なりに呼ぶならそれが妥協点だったんだ」
「・・・・もう一発殴らせろ」
「此処で君がなすべきことはもうない、帰れ」
□もう一度掴もうと前に出たソルだったが、男の言葉と共に先刻よりも急速に弾き出された。
□男が顔から手を離すと、手からぽたりぽたりと血が垂れる、どうやら鼻血が出ていたらしい。 トントンと首の後ろを叩きながら、レイブンが見せてくれたカンペ通りに台詞をいうものの、全くさまにはならなかった。 白い衣装に落ちた鼻血がやけに目立った。