「腹減ったー」
明るい声でそういうと、ヴィーは川の中にざぶざぶと入っていき、水面を睨んだ。暫らくは微動だにしなかったが、右手の人差し指を針のように変え、一閃して二匹の魚を刺して捕まえた。大きさとしては子供のヴィーの掌一つでは足りないくらいはある。うし・と小さくいうとヴィーは川原に上がり、指に刺さったままの魚を外して、
「いただきまーす」
きちんと両の掌を合わせ、頭をぺこりと下げると、生のまま腹に齧り付いた。
「うッ・・・・」
それを見ていたテスタメントがいかにも嫌そうな声を上げた。それに気付いたヴィーは口の周りを幾らか汚したまま、顔を上げてテスタメントを睨み、
「何?」
「・・・・よく生のままで食べるな・・・・」
「動物みたいって?大きなお世話だ。別に魚ん中に入ってる変な虫だってギア細胞に勝てるかっつーの」
ふん・と鼻を鳴らすとヴィーはあっという間に骨一つ残さず一匹食べきった。二匹目に手を伸ばそうとして、それをはたと止め、
「お前はどうすんの?飯」
基本的にギアは自分で餌をとる、草食ならば地面で草を食んだり、木に登って果実を食べたり。肉食ならば狩りをする。
テスタメントは元が人で、いってしまえば一番色々なものが食べられるわけだが、
「・・・此処は食料に乏しい、私は要らない」
確かに、一時的に拠点とした此処は、季節柄果実などは全くない上に、小動物なども少ない為、肉食のギア達も餌を手に入れるのに窮している。ただ川の中には魚がいるのだが、それをとる術を知らないらしく、手は出さない。まぁギアは一度食事をすれば一週間は十分活動できる。それほど多くの餌を一度に必要とはしない為、取り立てて困っている様子ではない。
テスタメントはヴィーの口元が汚れたままなのが気になるらしく、視線を感じたヴィーは慌てて甲でそれを拭った。以前口元の汚れに気付かなかったヴィーの口を、テスタメントが拭いたのだが、それが子ども扱いだ・と逆鱗に触れて、ジャスティスに喧嘩両成敗とガンマレイを入れられる結果になった。明らかにテスタメントはとばっちりを受けただけ。
「お前、魚食えば良いじゃん」
「・・・要らない」
つい先ごろの戦闘でヴィーもテスタメントも負傷した、ギアが感じる空腹は欠損を補おうとすることに近い。動くエネルギーならそれこそ無限のエネルギー・法力だけで事足りるが、欠けた部分をゼロから生み出し補うことは難しい。そのための摂食である。テスタメントも空腹の筈なのだが。
テスタメントの言葉にヴィーはやれやれ・と呻くと、残っていた一匹を摘まみ上げ、
「これやる」
ぺぃ・と魚をテスタメントに投げつけた。テスタメントはそれを受け取ったものの、
「要らないといったが?」
「殺したら喰わないとジャスティスに怒られる、でも俺はもうお腹一杯だからさ。お前喰え」
そういって立ち上がると、パタパタと服の埃を叩いた。
ギアの力は万能で、魚を捕まえることも容易い・というわけではない。向き不向きがあるのだ、そしてヴィーの方が向いている。
受け取った魚を持ったまま固まっているテスタメントに、ヴィーは小さく首を傾げると、
「お前・・・・魚喰えないの?」
「魚は食べられる・・・が、これをどうすれば・・・」
「齧っちゃえよ」
「出来ん・・・・!」
それだけは・と首を振る姿を見る限り、無理にさせることも出来なさそうだ・とヴィーは僅かな間思考を巡らし、
「お前法術で火を熾せる?」
「出来るが・・・・私はこう・・・魚の内臓を食べるのは・・・」
「丸焼きにしてもダメとかいうの?贅沢じゃね?それ」
呆れたようにいうと、ヴィーは貸せ・とテスタメントの手から魚を取ると、人差し指をナイフのように変えて、腹を割き、内臓を指で掻き出し、えらを千切った。
「ここまでしたら喰えるだろ、焼いて喰っとけ」
勿体ないから・といって掻き出した内臓とえらを口に放り込み、ヴィーは面倒な奴だ・と呻きながら川原に歩いていってしまった。テスタメントは熾した火に魚をかざしながら、せめて捌けるようになった方が良いのかと悩んでいた。
□後書き 樽の中のテスタメントは、小さい子供は放っておけない、言葉遣いや立ち居振る舞いについつい小言をいう、並んだカップの一つだけ柄が向きが違うと直さずに入られない、などなど。 視野は狭くないが、考え方が狭い。 やっぱり人の時の価値観を完全には捨てられない。
台所に立って料理等は出来るが、生きた魚を捌いてどうこうとかできない。 切り身になっているなら出来る。 人をざくざく殺してるくせにな。 魚の内臓食べられなそうですよね。 樽も食えんが。
そういうイメージがある。

ヴィーが野生児のようだ・・・・間違ってないけど。