□ジャスティスが眠っている時は、ギアは極力その傍には近寄らない。□傷を癒す為にも消費した力を回復する為にも、ジャスティスには睡眠という手段しかない。□だが眠っている間はジャスティスといえども無防備。□その為、ジャスティスは眠っている間に索敵用に電気の網を辺りに張り巡らせ、それに何かが触れればすぐに目を覚まして体勢を整える。□といっても、近付けばその気配だけで目を覚ましてしまうくらいにジャスティスは常に気を張り巡らせているのだが。□その為、しっかりと休め、起こさないようにギアは近付かない。
□森深く、そこは磁場がおかしい為に人が入ると迷う為近寄ることは稀で、木々が鬱蒼と生い茂る為、空から森の様子を知ることも難しい。□そこにギアの拠点の一つがあった。□といっても、プラントのような施設があるわけではなく、ギア達が素体に近い形で生活しているといった方が良い。□草食動物だったものは草を食み、肉食だったものは獲物を探す。□時折共食いしかけることもあるが、今それはジャスティスに禁じられていた。
□そしてそのジャスティスは、
「何してんだ?」
□巨木の一つの木陰に身を寄せ、眠っているジャスティスに向けられる一つの視線。□不意にかけられた声に、ジャスティスを睨んでいた男はびくりと肩を震わせ、声のした方へと振り向いた。
「・・・・ヴィー」
「ジャスティス睨んで何してんだ?」
「・・・睨んでいたわけでは・・・」
□ヴィーの言葉に、テスタメントは言葉を濁すと、そう・とヴィーは少し驚いたような顔をした。□テスタメントが首を傾げると、
「人間がジャスティスを見る時と同じ目をしてたから、てっきりジャスティスのこと殺したいのかと思った」
□こともなげにそういうとヴィーはにこりと微笑い、驚いて言葉をなくしているテスタメントに、
「ジャスティス殺したいんじゃないのか?」
□笑い事ではないことを微笑いながらいうヴィーの真意が判らず、テスタメントは無言で立ち尽くした。□違う?と首を捻る様は、外見通り子供らしい仕草に見えるが、あどけなさなど微塵もない冷たく見える目。
「何を馬鹿なことを・・・」
□テスタメントはそれだけをいうと、その場から離れようとヴィーの脇を通り抜けようとしたが、ヴィーはテスタメントの服を掴んで、それを止めた。
「正直なことは美徳らしいな」
□そういって冷たく微笑うヴィーに、テスタメントは背筋が冷えるような感覚を受ける。□テスタメントが足を止めると、ヴィーはすぐに手を離した。□ジャスティスに目を向け、先刻までの冷笑が嘘のように、嬉しそうに微笑む。
「ジャスティスはさ、ギアとして働くなら、ちょっとくらいなんでもないんだって。テスタメントは強いギアだし」
□未だに何を思ってそういっているのか判らないヴィーに、テスタメントは警戒だけは怠らず、そうか・と相槌だけ打つ。□ヴィーは指を絡めては解きと、少し落ち着きのない動きをしていた。□暫らくすると、金属のようになった指がぶつかり合ってカチャカチャと音を立てだした。
「ジャスティスなら怪我させられたりしないだろうけど、それでもジャスティスを傷つけようとする奴は・・・むかつく」
□そういった瞬間、ヴィーは振り向いて右手をテスタメントに向かって振り抜いた。□避けるまでは反応出来なかったが、咄嗟に鎌の柄で防御したテスタメント。
「拾われたのも判らないで噛み付こうなんざ、どんだけ頭悪いんだ・・・」
□指全てを一振りの刃物のように形を変えた右腕は、子供そのものの細さながら、その力は大人をはるかに凌駕する。□テスタメントはそれを柄が断ち切られる前にどうにか弾き返すと、
「拾われた・とはどういう意味だ」
「言葉通りの意味だろう」
□判んねぇのか?と首を傾げて浮かべる笑みには馬鹿にしたものがある。□親指で無い眉をなぞりながら、ヴィーはテスタメントに笑いかけ、
「今いるギアのうちジャスティスがプラントで作ったものも幾つかいるけど、人のギアなんてジャスティス作らないよ?人は殺す対象でしかないんだからさぁ」
□くっくっく・と喉を鳴らして笑い、ヴィーは顎に人差し指を当て、
「人が作ったギアだけだよ人素体のギアなんて・・・理解した?」
「それが何故拾われたということになるんだ!」
「判んねぇかなぁ・・・聖戦が始まってギアが人の敵でしかないこの時勢に、何を考えたんだかまだギアを作る奴らがいる。そんな奴らが作ったギアなんて、怪しいもんだろう?それでもジャスティスの力の前には人の小細工なんて意味がないのか、もとより聖戦を長引かせる為だけなのか・・・気にせずそばに置いてくれる」
「お前もか?」
□お前・という言葉に、ヴィーは片眉を上げて少し不快感を露にしたが、あえて口には出さずに、
「俺は聖戦前に作られたギアだ、少しお前とは違う・・・同じなのは人が素体・ってだけか」
□見た目よりずっと歳喰ってるんだよ・というと、ヴィーは渋面のテスタメントに一歩近付くと、死体のように血色の悪い顔を見上げた。□緊張したのか体を強張らせるテスタメントに苦笑しながら、
「仮にジャスティスがお前を支配しなかったとするだろう、人の元でギアの敵として生きようとしても、人はギアを信用したりしない。今更お前は人の隣には戻れない」
□ひょいと手を上げたヴィーは、ヴィーを見下ろしていたテスタメントの髪に手を伸ばして、一筋掬う。□カラスの濡れ羽色・といって良い黒髪。□テスタメントはヴィーの言葉を待った。
「一人で人から追われ、ギアにも身を寄せず、人に殺される。人を殺せば良い・というジャスティスの元にいるッてことは、お前守られてんだよ?一人でいるより確実に人に殺される確率減るんだし・・・それともお前殺されたいの?人殺すより殺された方が良いって?」
「・・・認めない」
「ってことは理解は出来た?」
「ッ!」
「ま、乱暴な話ではあるから、話半分で聞いとけ」
□髪から手を離したヴィーはにっこりと微笑い、ごそごそと服の中を漁り、
「で、俺が此処に来たのってこれ渡しに来たんだ。お前餌とるの下手じゃん!」
□と、テスタメントの顔先に突きつけられたのはトカゲ、尻尾を含めて40cmは越える大物だ。□顔に近づけられたテスタメントはびくりと肩を震わせると、急いで後ずさった。□テスタメントの反応にヴィーは不思議そうな顔をしたが、
「これ美味いからお前にやる、滅多に見つかんないんだぜ。飯食ってないだろ」
「・・・・・・遠慮する」
「えぇ〜」
□うぅ・と気持ち悪そうに呻いて顔を背けたテスタメントに、ヴィーは小さく不満そうな顔を上げた。□ヴィーに尻尾を摘ままれてくったりとしているなかなか大きいトカゲ、それを魚のようにヴィーがかじりつく様を思い浮かべて、テスタメントは更に顔を青くした。