「もうすぐハロウィンだよね?」
夕飯を作っているテスタメントの横で、先程から料理の過程を見ていたヴィーは、意味ありげな目線でテスタメントを見上げた。大方何かをねだるつもりなのだろう・と思っていたテスタメントは、溜め息一つつくと、
「菓子を用意しろというのか?」
「う〜ん・・・っていうかさぁ・・・色々俺も・・・考えたんだけどねぇ・・」
いい難そうに言葉をつかえさせ、ヴィーの顔が少し曇った。テスタメントは一度手を止めて、布巾で手を拭きながらヴィーの方へと向き直った。
「どうした?」
「ディズィーと歩いててね・・・」


「俺ハロウィンって初めてー!」
ディズィーのお使いについて街を歩いていたヴィーは、街の装飾を興味津々な様子で見渡した。近付く祭りに街も普段と違う活気がある。オレンジと黒、顔のあるかぼちゃにゴーストの飾り。どれもヴィーには見たことがないものだ。あれは何?と聞きまわるヴィーに、ディズィーは優しく教えていく。
「私は以前村にいた頃一回だけあります、今年は快賊団のみんなとやる計画を立てているんですよ」
「へぇ〜良いなぁ!」
買い物を終えたディズィーの荷物をヒョイと持ち、ヴィーはディズィーの手を掴んだ。ディズィーはにっこり微笑ってありがとう・というと、
「ヴィーさんにもお菓子用意してお待ちしますよ」
「本当!?」
嬉しそうに声を弾ませるヴィーに、ディズィーはえぇ・と頷いた。

グスッと鼻を鳴らしたヴィーに、テスタメントは首を捻った。今聞いたところで、此処まで気を落とす原因が判らない。少し不安が胸を過ぎる。
「俺・・・ハロウィンどっちで参加するか・っていったら、絶対子供側だろ?」
「それは・・・・お前なら仮装して、もらって回れば良いじゃないか」
そのつもりでいるだろう・と思っていたテスタメントは、ヴィーの言葉に首を捻った。ヴィーは少し俯きながら、
「年下に菓子をせびるのか・とおっさんにいわれた・・・・」
ジワと涙を目に溜めて、悔しげにいうヴィーに、テスタメントは頬を引きつらせた。ヴィーがおっさんと呼ぶのはソルだ、以前あった一件から完全に苦手意識を持っている。その前からソルを前にするとテスタメントの後ろに隠れるなどの行動をとった為、わけを聞いたところ、ギアになった頃の研究員の男達が怖かったらしく、大人の男全般ダメらしい。テスタメントが大丈夫なわけは、
「だってテスタメントはおか・・・・俺とどれだけ一緒にいたと思ってんだよ!今更じゃん?アハハ」
と微笑いながら、ごまかされた空気だけはしっかりとテスタメントは感じていたが、何をいおうとしたのか問いただす気にはならなかった。
よくよく聞けば、たまたま通りかかったソルがその言葉を投げかけ、何事もないように去ったそうだ。
確かにヴィーは100歳を超え、ディズィーは3歳。見た目では問題はないのだが、そんなことをいわれては、ハロウィンに参加したくても、素直に参加できないだろう。
「俺の周りにいる大人ってじいちゃんとテスタメントじゃん」
ジャスティスを除外したのは、ジャスティスがイベントにまず乗るはずがないと判っているからだろう。
「そうだな」
「でも二人とも俺より年下じゃん!俺もらえないよ!」
「私はお前に菓子を用意しておくつもりだったし、父上もそのはずだ」
「だっておっさんが年下に・っていったんだもん・・・」
あーん・と泣き出したヴィーに、テスタメントはあぁ・と呻いた。
「あの男は余計なことを・・・・」
疲れたように息をつき、ゆるく噛み締めた歯の隙間から言葉を漏らした。
「ハロウィン・・・・ジャスティス参加しない?」
数少ないヴィーよりも年上の人となると・・・・確かにジャスティスが一番有望だ。ヴィーに余計なことをいったソルもそうではあるが、それこそヴィーに菓子をよこす義理などない・と突っぱねるのは目に見えている。
が、まずジャスティスが人間のイベントに関わる筈がない・という根本的問題がある。ソルから菓子をもらうよりもはるかに難しい。
「どうしてお前はそういう無茶ばかりいうんだ!」
「ジャスティスに“トリックORトリック”とかいいたいじゃん・・!」
「それは単なる自殺志願だ!!菓子がほしいんじゃなかったのか?」
思わず叫ぶテスタメント。何で判っていてそういう無茶ばかりいいだすのか・とテスタメントは頭を痛ませた。とりあえず、ジャスティスが外出中であることに胸を撫で下ろしながら、
「ヴィー・・・お願いだから無茶をしてわざわざ怪我をするようなことは控えなさい・・・」
「折角のイベントなんだよ?ジャスティスに構ってもらいたいー!」
口を尖らせて拗ねるヴィーに、テスタメントは溜め息をつきながら、
「あの男がいったことなど気にせず、お前はハロウィンを楽しむことを考えなさい、ジャスティスは抜きで!私も父上ももう用意はしているし」
後で探し出して、保護者として一言文句をいってやる・と腹に決めながら、テスタメントは顔には出さすにそういった。
「年下・・・」
「気にしない!」
強いテスタメントの口調に、ヴィーは少し嬉しそうな顔をして、判った・と頷いた。


「ハロウィンの日にね、ディズィーがアパートに来るんだって」
インゲンの筋とりを手伝いながら、ヴィーの一言。
「そう・・・・か、来る時間が判ればその時間には私は此処を離れようと思う」
「あ、やっぱりディズィー用のお菓子用意して、ジャスティスに渡すように言付けるつもり?」
「・・・・ハロウィンと説明したら、ジャスティスは出かけたまま帰ってこられない気がする」
「う〜ん・・・下らん・の一言だとは思うけど、楽しみにしてる娘を前に私には関係ない・とは突っぱねられないだろうから、逃げるね」
ヴィーの予想にテスタメントも一つ頷くと、蒸かしたての芋の皮むきを一時中断し、ふむ・と考え込んだ。熱いままの方が皮が剥き易い芋だが、ギアになったお陰で多少の熱さはなんともない。その程度でギアになってよかった・とは決して思わないのだが。
「ハロウィンまであと数日・・・・ジャスティスは街に出たりなどなさらないから、耳に入るということはそうないだろうから・・・・あとは人の口が問題なわけだが」
「ジャスティスに話しかけようとするのってディズィーと俺達以外にいないんじゃない?」
「そうだな、ディズィーに当日までいわないでおくようにいえば、目の前にしていきなり逃げるということもなさるまい」
「カレンダーがない部屋で良かったよなぁ」
「あぁ」
「随分と楽しそうな話をしていたな」
「「!!!」」
背後からかけられた声に、二人揃ってビクリと体を竦ませ、恐る恐る振り返ると、
「驚いたか」
ひょいと手を上げて挨拶をするコピー。
「コピーが紛らわしいんじゃあ!!!!」
力一杯そう叫んだヴィーは、テスタメントの前に置かれた鍋を掴むと、中身をコピー目掛けてぶちまけた。
「芋が!!」
「熱っ!!!」
テスタメントの素っ頓狂な声と、熱いジャガイモが全身にぶつかったコピー。床に落ちないよう芋をエグゼビーストでキャッチしようとしたテスタメントだったが、その芋の熱さで更にビーストが悲鳴を上げた。
□後書き
ハロウィンの話というよりは、書こうとして樽が自ら突っ込んでしまったことをヴィーに自分でいわせてみた。「年下からせびる」・・・・ジャスティスとソルとスレイヤー以外は皆年下ですね、あとレイブンとあの男か・・・・これ全員出すとかありえねぇだろ。ヴィーの為だけにとか、あんまりオリジナル中心で話しまわしたくないので(痛いから)、これが限界。これも十分やばいんだけど。
テスタメントに懐かせて、ソルと距離をとるようになりました、アパートだと。酒ビンを顔面に投げつけられたのが、心底怖かったようです。
樽は・・・ソルには人を怒らせる才能があると信じています・・・嫌われる才能というか・・・・イメージですね、ひどいイメージだ。怒らせる才能・のほうが的確か?