「あれ何?」
夕飯の買出し中、屋台に興味を示して足を止めたヴィーに、テスタメントは無言でその傍を足早に通り過ぎようとした。が、
「食いたい」
「帰ってすぐに作る、夕飯が食べられなくなるだろうが」
「歩いてたらすぐに腹減るからー」
「安いよー」
ぐずるヴィーに、テスタメントが怒ろうと口を開きかけた時、かかった店主の声に、テスタメントはからくり人形のような動きで、店主を見た。
「きさッ―――」
「マスタードサービスするよ、泣けるくらい♪」
そういって黄色い容器を振るのはクロウ。相変わらず顔色が悪く、やけに明るい色の制服がアンバランスだ。
「俺辛いのダメー」
ヴィーが口を尖らせていうと、クロウは残念・といいながらもにっこりと微笑う。
「そっちのギアは見かけだけじゃなく舌までお子様ァ?」
「わぁ!笑顔でいうねぇ!こいつマジむっかつくー♪」
ヴィーは、馬鹿にされたことに同じように笑顔で返しながらも、屋台の支柱の一つを力強く握り締め、みしみしと音を立てる。
「ちょっと屋台壊さないでよ?リースなんだから」
そこで言葉を詰まらせたまま停止していたテスタメントは、
「こんなところで何をしているんだ!!」
屋台の店先で笑顔を突き合わせていたヴィーとクロウ、そのヴィーの肩を掴むと引き離すように引っ張った。背に庇うと、クロウを睨み、
「何を企んでいる!?」
「借金返済計画第二段、普通にバイト」
「此処のホットドッグ、ミミズ使ってるってー」
クロウの言葉を聞いた途端、ヴィーが大声を張り上げた。ヴィーの言葉に、当然クロウは慌てる。
「ちょっと!!なんてこというんだよ!陰湿じゃないそういう嫌がらせ!!」
「お前に陰湿っていわれるの!?」
クロウの抗議に、ヴィーは涙を滲ませて、ショックを受けたとアピールするように胸を押さえた。
「泣くほどショックなんだ?でもこっちも泣きたくなるようなことされたからね。止めてよ、本当に食べ物に対しては人って神経質なんだからさ」
「食えりゃ良い・って生活したら、皆ミミズも喜んで食べると思うけどなぁ」
「ヴィー、流石にそれは難しい」
聖戦下のサバイバルもサバイバルなヴィーの食生活を思い出したテスタメントは、気分が悪そうに顔色を青くして、呻いた。
「貴様が一人で・とは珍しいな・・貴様を殺したいと思っているものは少なくないだろうに」
そういいながら、いつものように何も持っていなかった手元から大鎌を取り出すテスタメント。暗に自分もその一人といっている。だが、クロウは相変わらず余裕な様子で、
「一人じゃないよ、この屋台の稼動はコピーが手伝ってくれてる」
「・・・・?」
クロウが指差す屋台の裏に回れば、路地の方へと繋がるコードが一本。それを辿って路地に入ると、コピーが隠れるように布を頭から被ってしゃがみ込んでいる。どうやらコードの端を掴んで、法力による雷で電気を補給しているらしい。
「・・・・・・」
「あぁ!!ジャスティスじゃないことは判っていても!!同じ姿でそんなみすぼらしいっていうかみっともないっていうか残念なの見せられると、凄く切ない!!」
ヴィーの悲鳴に、無言でショックを受けていたテスタメントは同意するようにコクコクと頷く。その残念な姿を見られた当人であるコピーは、気にした様子もなく、小さく手を上げ、挨拶してきている。
「しょうがないじゃーん。コピー連れて客商売は出来ないでしょう」
「まずお前が客商売をしようとするな」
テスタメントの言葉に、クロウはえぇ・と不満げな声を上げ、
「結構売れてるよ、才能あるのかな?って思うくらい」
「やっぱりミミズ使ってるとか、指入ってるとかいって邪魔しようよ」
「それは流石に、人としてどうかと思うんだが・・・指って怖いこというんじゃない」
「俺ギアだもん!人じゃないもん!指が入ってるのテレビでやってたもん!」
「おかしなもの見るんじゃありません!」
不満そうに口を尖らせるヴィーに、お母さんのような口調で注意してしまうテスタメント。
「子供に危ないもの見せるの教育に良くないよー」
「聖戦下で稼動していたギアに・・・今更指くらいと思ってはいけないのだよな、教育・・・・教育し直した方が・・・ん?今誰が教育って・・・・」
青い顔でぶつぶつ繰り返すテスタメントだったが、ヴィーはテスタメントの服を引っ張り、
「大声で変なこといってたから警察来た」
「逃げるか」
「ちょっとひどいよ!!」
遠めに集まる人だかりと、駆けてくる足音。警察らしいと気付いたヴィーは、テスタメントの首根っこを掴むと、石畳を蹴って飛び上がった。ぐ・と小さな悲鳴を上げたテスタメントだったが、買出しした荷物はしっかり持っている。傍の建物の屋根に着地すると、屋根伝いに駆けていく。さっさと逃げた二人に、クロウの恨み言がぶつけられたものの、振り返るはずもなかった。
「コピー、撤収するよ」
「了解」
「明日は場所変えよ」
まだやるのか・と思ったものの、コピーがそれを口に出すことはなかった。
□後書き
いつも書く時は何かしらいわせたい台詞が頭に浮かび、それをいわせる為に紆余曲折!といった流れになります。今回はホットドッグ売ってるクロウが書きたかった。その描写殆どないですけど。本当に「屋台を覘いたらクロウがいてびっくり」という設定だけ。掘り下げてない。力足らずでした。