「なんていうかさ」
ふふ・と嬉しそうに頬を緩めながら、ヴィーは弾む足取りで進軍していた。隣を歩くのは、相変わらず血色の悪い顔をしたテスタメント。ヴィーとは対照的に沈んだ様子で、重い足を運んでいる。
「こう・・後ろから“だぁ〜れだ?”ってやってみたいわけ」
「・・・・?」
「だからぁ〜!」
首を傾げたテスタメントに、ヴィーはじれったそうにそういうと、傍を歩いていた狼のギアの背に跨り、突然その視界を両手で覆った。当然、狼のギアは一瞬慌てたが、ヴィーが軽く腹を踵で叩くと、落ち着きを見せてそろそろと歩いた。
「馬じゃないんだぞ・・・・そんな扱い方をして」
「もっと賢いんじゃない?ギアなんだから」
何いってんの?と笑うヴィーに、テスタメントは痛むこめかみを爪の先で叩きながら、
「それで・・・・何故いきなりそんなことをしたいなどと?大体誰にするつもりでいっている」
いい加減離してやれ・というテスタメントの言葉に、ヴィーはごめんな・と謝りながら手を離して、ギアの背から降りた。解放されたギアは少し早足で歩いて、ヴィーの傍から離れる。
「誰って・・・・ジャスティスだけど?」
何を当たり前のことを・といわんばかりに軽く驚いた様子のヴィーに、テスタメントの頭痛は最高潮を迎えた。
「それでね、やろうと思ったんだけど〜。ジャスティス背が高くて俺じゃ手が届かないの。それに砲門の所為で、後ろからジャスティスの顔に手を回すのって難しいし・・・」
「出来ないだろう、難しいではなくて」
「テスタメントがさ、俺のこと抱っこしてくれれば高さの問題は解決するかもよ?」
「絶対に嫌だ!!!」
試そうとするだけでも、どういう結果になるか判りそうなものを、何を嬉々としていっているのか、テスタメントには理解出来なかった。とばっちりを受けることだけは避けたいテスタメントは、力一杯首を振り、
「私を巻き込むな」
「けちー」
「自分の身を守ろうとするのは当然だ!」
「良いよ、これ使うから」
テスタメントの言葉に、機嫌を損ねたヴィーは唇を尖らせながら、法術で取り出した身長を越す長い棒をくるりと器用に回して見せた。その先についているものを見たテスタメントの顔が曇る。
「・・・・ヴィー、これは」
「お前が使ってた奴見てさ、それと召喚を組み合わせたら出来た」
「法術の無駄遣い・・・・ではなくて、こんなものどうするつもりだ」
「どうって・・・後ろから“誰だ?”ってやるんだよ?」
ヴィーの言葉に、テスタメントは慄く様に顔を歪め、力一杯首を横に振った。
「止めなさい、これは当初の目的から著しくずれている!最初のものより悪意がある!」
「悪意なんてないよ!ちょっとした可愛い悪戯じゃん!」
「確かに後ろから手で目を隠して・というのなら、私だって子供の頃父上にしたことがある(投げられたが)、悪戯と許されよう(受身を失敗して肋骨に皹が入ったが)。だが、それは違う!」
「えぇー」
テスタメントの必死の言葉に、ヴィーは不満げな声を上げて、持っている棒を小さく振った。先についた網がそれに合わせて微かに揺れる。そう、ヴィーが持っているのは大きな網。虫取り網ではないのは大きさを気にしてか知らないが、恐らくは漁に使われるタイプのものだろう。そんなものを背後から頭に被せたら、ジャスティスでなくとも怒る。
「だって・・・届かないもん・・・・」
「届かなくとも!まず、ジャスティスにそんなことをしようとすること自体間違っているんだぞ?」
「だって・・・したかったんだもん・・・・」
じわじわと涙を滲ませて、泣き声を上げることだけは必死に堪えるようにしゃくりあげるヴィーに、テスタメントはたじろいだ。心なしか、周りのギアの目が非難がましく見える。私は悪くないだろう・と、じろじろと無遠慮な目を向けるギアを睨み返しながら、
「ヴィー・・・網は使うな」

その日の午後、ヴィーとテスタメントは仲良くガンマレイを受けた。そして網は、食料調達に重宝した。


「懐かしいなぁ」
「そうだな」
「ぅう・・・」
「泣くな、私達とは違う」
「お母さんだぁ〜れだ」
「ディズィー・・・・私を母と呼ぶのは・・」
「あ!そうでしたね、私ったら。ウフフ」
アパートの午後。母子の姿を見ながら、ヴィーはジュースを啜り、テスタメントはお茶を飲みながら、在りし日を思い出していた。

□後書き
ジャスティスブログなのに、意外とジャスティスが出ていないのが多い気がしてきている樽です。難しいんです、ジャスティス。聖戦時代を妄想しようにも資料が果てしなく足りないし。OTL
真面目な・・・聖戦を妄想しないでもないですが、そうすると重きをヴィーに置くんですよね・・・その間の設定がオリジナルでしかない以上、それにジャスティスをはめるのに多少抵抗があるのと、ジャスティスというより聖戦ってこういうこと?って文になるので。ジャスティスも聖戦の一部として考えるというか・・・。まぁ・・・真面目といっても妄想ですから、しかもギアよりな。

 樽は人間嫌いなんですよ。色々と文に滲んでいるとは思うんですけど。

結局〆は母子とか。